阪大、脳内で記憶情報が割り当てられる仕組みの一部を明らかに

2015年4月19日 13:44

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今回の研究結果の概要を示す図。学習によって脳内の一部の神経細胞群に記憶情報が割り当てられる。遺伝子改変マウスでは、それらの細胞にテタヌス毒素が発現し、神経活動が遮断される(紫色の細胞)。再学習訓練を行っても、遺伝子改変マウスはその記憶を獲得して思い出すことができなかったことから、再学習の際にも同じ神経細胞群が使われる仕組みが存在すると考えられる。一方で、異なる学習訓練Bにより、遺伝子改変マウスは記憶を獲得して想起することができたことから、学習訓練Aとは異なる細胞群が使われたと考えられる(大阪大学の発表資料より)

今回の研究結果の概要を示す図。学習によって脳内の一部の神経細胞群に記憶情報が割り当てられる。遺伝子改変マウスでは、それらの細胞にテタヌス毒素が発現し、神経活動が遮断される(紫色の細胞)。再学習訓練を行っても、遺伝子改変マウスはその記憶を獲得して思い出すことができなかったことから、再学習の際にも同じ神経細胞群が使われる仕組みが存在すると考えられる。一方で、異なる学習訓練Bにより、遺伝子改変マウスは記憶を獲得して想起することができたことから、学習訓練Aとは異なる細胞群が使われたと考えられる(大阪大学の発表資料より)[写真拡大]

 大阪大学の松尾直毅独立准教授は、反復学習には脳内の同じ神経細胞の組み合わせが使われる仕組みが存在することを発見した。

 これまでの研究によって、記憶は脳内に散在する一部の神経細胞群の活動として存在することが実証されつつあるが、星の数ほどもある脳内の神経細胞の中から、特定の神経細胞の組み合わせが選ばれる「記憶の割り当て」については、未解明の点が多く残されていた。

 今回の研究では、まず、学習時に働いた特定の神経細胞群をテタヌス毒素で標識することにより、それらの細胞群の神経伝達を選択的に遮断できる遺伝子改変マウスを作製した。そして、マウスを箱Aに入れて数分後に、床に弱い電気刺激を与えることにより、箱Aの環境と電気刺激という嫌な出来事を関連づけた連合記憶を形成させる実験を行った。

 その結果、遺伝子改変マウスでは、この学習時に活動した神経細胞群では次第にテタヌス毒素が発現し始め、神経伝達が選択的に遮断されること、箱Aに対する嫌な記憶の想起が障害されることが分かった。さらに、同じマウスに対して、同じ箱Aで2回目の学習訓練を行ったところ、通常のマウスでは記憶が強まったが遺伝子改変マウスでは記憶の強化は認められなかった。この結果は、1回目の学習時に記憶情報が割り当てられた神経細胞群の働きが阻害されていると、再び同じ学習ができないことを示唆している。

 今回の成果は、精神・神経疾患や加齢に伴う学習と記憶の障害の原因解明などへの応用にも役立つことと期待されている。

 なお、この内容は「Cell Reports」オンライン速報版に掲載された。論文タイトルは、「Irreplaceability of neuronal ensembles after memory allocation」。

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