スマートフォンの「仲間同士の励まし合い」が高齢者の歩行量を増やす―ピアサポートアプリを組み込んだスマホ講座で、12週後の歩数が有意に増加―

プレスリリース発表元企業:国立大学法人千葉大学

配信日時: 2026-03-25 10:00:00



 千葉大学予防医学センターの中込敦士准教授らの研究チームは、高齢者向けスマートフォン講座に、仲間同士で励まし合うデジタルピアサポート(注1)アプリを組み合わせることで、日常の歩行量が増加するかを検証しました。その結果、デジタルピアサポートアプリを取り入れたスマートフォン講座を受けた高齢者では、通常のスマートフォン講座のみを受けた高齢者と比べて、12週後の1日平均歩数が約580歩増加することが明らかになりました。 
 本研究成果は、高齢者の身体活動促進と同時に、デジタル活用を支援する新たな地域介入モデルとして、今後の介護予防施策や自治体のデジタル施策への応用が期待されます。
 本研究成果は、2026年3月10日に国際学術誌 Journal of Medical Internet Research に掲載されました。
論文はこちら:10.2196/75708
[画像1: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/15177/1143/15177-1143-41d47e8f091dc063222ec6d0679e7207-1239x718.png?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]


■研究の背景 
 高齢期における身体活動の低下は、慢性疾患、生活機能低下、生活の質(QOL)低下の重要なリスク要因です。しかし、2016年に自治体が実施したウォーキング事業の参加者と非参加者を比較した研究では、歩行時間の増加は一人あたり 1 日約 3.6 分(=約 360 歩)の増加と、歩数を大幅に上げる介入は難しいことが報告されています(参考文献1)。「健康日本21(第3次)」(2024年4月開始)(注2)では、より実効性のある健康づくり施策を推進するため、ICTやアプリの活用が重要な手段として位置づけられています。
 行動科学や社会疫学の分野では、ピアサポートが、行動の継続を促進する有効な手法であることが知られています(参考文献2)。モバイルアプリには多様な行動変容技法が組み込まれていますが、デジタルピアサポートを組み込むことで、身体活動の維持・向上により高い効果が期待されます。
 しかし、デジタルピアサポートアプリを組み込んだスマホ講座による、高齢者の身体活動促進について、無作為化比較試験(注3)により検証した研究はこれまでありませんでした。

■研究成果のポイント
 墨田区・千葉市在住の60歳以上の高齢者156人を対象としたクラスター無作為化比較試験を2023年9月-2024年9月に実施しました。
 その結果、デジタルピアサポートアプリを用いた群では、以下のような傾向が見られました。
・12週後の1日平均歩数が579歩増加。
・身体活動量や自己申告の歩行時間には有意差はなし。
・スマートフォンを「ほぼ毎日利用する」高齢者の割合が有意に増加。(オッズ比(注4)4.1倍)
・スマートフォンの情報検索や写真撮影といった12項目の利用目的の数が平均0.58項目増加。
・特に80歳以上の高齢者で歩数増加の効果が大きい傾向。

■研究者コメント
 高齢者では、機器操作や利用環境の差による「デジタルデバイド(注5)」が問題となっています。そのため、高齢者の身体活動促進とデジタル活用支援を同時に進めることが、自治体の介護予防や地域づくりにおいて重要です。今後は、介入効果の長期的な持続性を検証するとともに、エビデンスに基づいたデジタル活用支援を、自治体の介護予防や地域施策の中で実装・普及していくことを目指したいと思います。
 ただし本研究では以下の点に関し、今後の研究で検討する必要があります。


[画像2: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/15177/1143/15177-1143-fcbeb494c806b1e33456121e7f004661-333x413.png?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]
中込敦士 准教授

・予定していた目標サンプル数に達しておらず、副次的な評価指標については検出力が十分でない可能性。
・約20%の参加者が3か月後の追跡調査に参加せず、欠測データが生じており結果に偏りが出た可能性。
・都市部で実施された研究であり、地方部など他地域への一般化には慎重な解釈が必要。
・介入期間は12週間であり、長期的な持続効果は検証されていない点。

■用語解説
注1)ピアサポート:年齢や立場が近い人同士(仲間)が、励まし合いや情報共有を通じて、行動の継続を支え合う仕組み。本研究では、スマートフォンアプリ上で歩数目標や日常の活動を共有し、互いに声を掛け合うことを指す。
注2)健康日本21(第3次):日本政府が推進する国民の健康づくりのための基本計画。第3次は2024年4月から開始され、健康寿命の延伸や健康格差の縮小を目的として、ICTやデジタル技術の活用による実効性の高い健康づくり施策が重視されている。
注3) 無作為化比較試験:無作為に介入群と対照群に割り付けて比較する研究手法。本研究では、個人ではなく、3~5人のグループ(クラスター)単位で割り付けを行い、仲間同士の影響が結果に及ぼす効果を適切に評価した。
注4)オッズ比:ある要因がある群とない群で、ある出来事の起きやすさ(オッズ)を比べた値。1より大きいと起こりやすく、1未満だと起こりにくいことを示す。

■論文情報
タイトル:Digital Peer Support to Increase Walking Among Older Adults: A Cluster Randomized Trial
著者:Atsushi Nakagomi, Noriyuki Abe, Takayuki Ueno, Gemmei Izuka, Yohei Kawasaki, Katsunori Kondo
雑誌名:Journal of Medical Internet Research
DOI:10.2196/75708

■研究プロジェクトについて
 本研究は、エーテンラボ株式会社から研究費の提供を受けました。同社は、研究デザイン、解析、解釈、論文執筆には関与していません。 

■参考文献1)
2020年10月10日発表プレスリリース 「よこはまウォーキングポイント事業参加の高齢者歩行時間1日約3.6分(約360歩)長く、運動機能、うつが良好」

■参考文献2)
タイトル:Peer support within a health care context: a concept analysis
雑誌名:International Journal of Nursing Studies
DOI:10.1016/s0020-7489(02)00092-5.

PR TIMESプレスリリース詳細へ