【学習院大学】子どもを持ちたくない・迷っていることが結婚を遅らせる要因に東アジアの少子化の原因への新たな示唆
配信日時: 2026-03-10 17:20:04
ポイント
●本研究では、「結婚の減少が少子化をもたらした」とする従来の説明とは逆に、「子どもが欲しくない・迷っているから結婚しない」という逆の関係がある可能性に着目して、これを「子ども志向の結婚(Child-driven marriage)」仮説として提示しました。
●分析の結果、全般的に、子どもを持つことに消極的あるいは不確実な態度を持つ人ほど結婚意欲が低いことがわかりました。さらに、結婚意欲が同程度であった場合でも、子どもを持つことに消極的あるいは不確実な態度を持つ人ほど結婚に移行する確率が低いことが明らかになりました。
●以上の結果は、結婚支援と子育て支援を切り離して考える従来の議論に再考を促し、未婚者が抱く子どもを持つことへの不確実性を軽減することが、少子化対策として重要である可能性を示唆しています。
■研究の概要
ハーバード大学の打越文弥研究員、学習院大学法学部の麦山亮太准教授、東京大学社会科学研究所の余田翔平准教授、プリンストン大学のジェームズ・レイモ教授らの共同グループは、子どもを持つことへの意欲(出生意欲)が結婚への移行に影響していることを明らかにしました。
日本をはじめとする東アジアは世界で最も少子化が進んでいる地域であり、なぜこれらの地域で少子化が進行したのか関心が持たれています。日本では、婚外子が少なく、結婚した夫婦の子ども数は大きく減っていないことから、少子化の原因は結婚の減少(未婚化・晩婚化)にあるとする議論が主流となってきました。
しかし同時に、日本では、結婚することが子どもをもつための必要条件である、という規範が強く根付いています。こうした規範のもとでは、子どもを持つつもりがない、あるいは不確実である(わからない、決めていない)人びとが結婚を避ける・あるいは先延ばしにする、という従来とは逆の関係の可能性を考えることができます。本研究ではこれを「子ども志向の結婚(Child-driven marriage)」仮説として提示し、実際にそれを検証しました。
出生動向基本調査*1および東大社研・若年壮年パネル調査*2データを用いた分析の結果、子どもを持つことに消極的あるいは不確実な態度を持つ人ほど、結婚意欲が低いことがわかりました。さらに、出生意欲が低い人は、結婚意欲を統制したうえでもなお、結婚に移行する確率も低いことが明らかになりました。以上の結果は、結婚意欲とは独立に、出生意欲自体が結婚行動と関係していることを示唆しています。さらに、出生意欲が低い男性はパートナー探し(婚活)にも消極的であり、そのことが結婚への移行確率の低さを一部説明することもわかりました。
以上の結果は、結婚支援と子育て支援を切り離して考える従来の議論に再考を促し、未婚者が抱く子どもを持つことへの不確実性を軽減することが、出生率の向上にも寄与する可能性を示唆しています。
本研究成果は2026年2月27日(米国東部時間) にPopulation and Development Review誌のオンライン版に掲載されました。
■研究の背景
日本を含む東アジアは、「超少子化(Lowest-low fertility)」と呼ばれるほど出生率が低いことが知られており、なぜこれらの地域で少子化が進行したのか関心が持たれています。日本では、婚外子が少なく、結婚したカップルの持つ子どもの人数は大きく減っていないことから、夫婦が持つ子どもの数の減少よりも、結婚の減少(未婚化・晩婚化)が少子化の主要因とされてきました。つまり、結婚が減ったので子どもが減った、という順序で少子化を捉えてきたといえます。
しかし、日本において結婚はそれだけで独立しているわけではなく、同時に、出産をはじめとする様々な期待を内包する「パッケージ(Marriage package)」として認識されています。いわば結婚は出産の必要条件となっているといえます。こうした規範のもとでは、子どもを持つつもりがない、あるいは不確実である(わからない、決めていない)人びとが結婚を避ける・あるいは先延ばしにする、という従来とは逆の関係の可能性を考えることができます。本研究ではこれを「子ども志向の結婚(Child-driven marriage)」仮説として提示しました。
■研究の内容
上記の仮説を検証するため、本研究では、国立社会保障・人口問題研究所が実施する「出生動向基本調査」、および東京大学社会科学研究所が実施する「若年壮年パネル調査」を用いて、未婚男女の出生意欲が結婚意欲および結婚行動とどのように関係しているかを分析しました。
まず、出生意欲と結婚意欲には強い正の相関があることが確認できます。以下の図に示すように、子どもが欲しい(積極的)と考えている人は結婚に対しても積極的な態度を示している一方で、子どもが欲しくない(消極的)、あるいは子どもが欲しいかどうかわからない(不確実)と考えている人は、結婚に対しても不確実あるいは消極的な態度を示していることがわかります。さらに、「出生動向基本調査」の分析から、こうした出生意欲と結婚意欲の強い正の相関は少なくともこの20年間大きく変わっていないことがわかりました。
出生意欲は結婚意欲だけでなく、実際の結婚行動にも関連しています。以下の図に示すように、出生意欲が「積極的」な場合と比べると、出生意欲が「不確実」あるいは「消極的」な場合には、他の要因を統制したうえでもなお一年あたりの結婚の発生率が低い傾向があります。結婚意欲を統制したうえでも(結婚意欲が同程度であったとしても)、女性の場合は出生意欲が「消極的」であると結婚の発生率は低く、男性の場合は「不確実」「消極的」いずれも結婚の発生率が低いことがわかりました。
さらに追加的な分析を行ったところ、男性の場合は、出生意欲が低いとパートナー探し(婚活)が不活発な傾向があり、そのことが、結婚への移行確率の低さの一部を説明することがわかりました。女性も同様の傾向はみられるものの、統計的に検出できる水準ではありませんでした。
■社会的意義および今後の展開
これまでの日本の少子化対策では、子育て支援と結婚支援は別々に捉えられてきました。子育て支援としては、児童手当の拡充や育休の推進など、主に結婚したカップル・すでに子どもがいる世帯への支援に重点が置かれてきました。また、未婚者に対しては、出会いの場の提供などが実施されてきました。
しかし、本研究の結果は、両者を分けて考えることに再考を促し、子どもを持つことに対するネガティブな見通しや不確実性を解消することが少子化対策において重要である可能性を示唆しています。少子化が結婚している夫婦の子ども数の減少からではなく結婚の減少(未婚化・晩婚化)から生じていることは確かですが、子どもを持つことにポジティブな見通しが持てないから結婚しない、というのであれば、結婚を促進するだけでは不十分です。子どもを持つことにポジティブな見通しを持つことができ、不確実性を減らすような政策が、少子化対策として重要であるといえます。
■発表者
打越文弥 Harvard University Academy Scholar
麦山亮太 学習院大学 准教授
余田翔平 東京大学 准教授
James M. Raymo Princeton University Professor
■論文情報
論文名:Revisiting the Relationship between Marriage and Childbearing in East Asia:
The Role of Fertility Desires in Japan
雑誌:Population and Development Review
著者名:Fumiya Uchikoshi, Ryota Mugiyama, Shohei Yoda, and James M. Raymo
URL:https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/padr.70050
DOI: https://doi.org/10.1111/padr.70050
■研究助成
本研究は日本学術振興会(JSPS)科学研究費補助金・特別推進研究(JP25000001, JP18H05204)、基盤研究(S)(JP18103003, JP22223005)、および基盤研究(C)(JP22K01851)の助成を受けて実施されました。
■用語解説
※1 出生動向基本調査
国立社会保障・人口問題研究所が1977年から日本全国の独身男女と有配偶女性を対象に約5年ごとに実施している調査です(https://www.ipss.go.jp/site-ad/index_Japanese/shussho-index.html
)。それぞれについて調査を実施しており、結婚や出産、子育てに関する意識や実態の長期的な変化を明らかにすることができます。
※2 東大社研・若年壮年パネル調査
東京大学社会科学研究所が2007年から日本全国の若年・壮年層を対象に毎年実施している調査です(https://csrda.iss.u-tokyo.ac.jp/socialresearch/
)。同じ人に対して繰り返し同一の項目を尋ねているため、人々の生活や意識の変化、結婚などのライフイベントとの関連を長期的に観察して分析することができます。
■研究に関する問い合わせ
ハーバード大学 ウェザーヘッド国際問題研究所付ハーバード・アカデミー アカデミースカラー
打越文弥(うちこし ふみや)
E-mail: uchikoshi@fas.harvard.edu
学習院大学 法学部政治学科 准教授
麦山亮太(むぎやま りょうた)
E-mail: ryota.mugiyama@gakushuin.ac.jp
■報道に関する問い合わせ
学習院大学学長室広報センター
Tel:03-5992-1008
E-mail:koho-off@gakushuin.ac.jp
▼本件に関する問い合わせ先
学長室広報センター
松本
TEL:03-5992-1008
FAX:03-5992-9246
メール:koho-off@gakushuin.ac.jp
【リリース発信元】 大学プレスセンター https://www.u-presscenter.jp/
プレスリリース情報提供元:Digital PR Platform
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