【横浜市立大学】働く世代が感じる「時間が足りない」感覚が幸福感、社会的孤立感、仕事の満足度に関連
配信日時: 2025-04-14 10:00:00



横浜市立大学医学部看護学科老年看護学の三浦 武助教、同大学大学院国際マネジメント研究科の原 広司准教授らの研究グループは、横浜市在住の結婚・子育て世代1万世帯を対象とした大規模なアンケート調査(ハマスタディ[1])を通して、仕事と家事を両立する働く世代が感じる「時間が足りない」という感覚(主観的時間貧困*1)に注目し、その実態と影響について分析・検討を行いました。
調査の結果、「時間が足りない」と感じている回答者(時間貧困者)ほど、睡眠時間や余暇時間が少ない傾向にあることが明らかになりました。また、時間が足りない状態にあることは、幸福感や精神的健康度の低下、社会的孤立感、そして仕事への満足度の低下とも関係していることが明らかになりました。
本研究成果は、「PLOS ONE」に掲載されました(2025年4月1日)。
研究成果のポイント
時間が足りないと感じている回答者(時間貧困者)ほど、睡眠時間や余暇時間が短い傾向があり、一方で育児・家事時間が長いことが明らかになった。
時間貧困の状態にある人ほど、幸福感が低く、心理的ストレスや社会的孤立感が強く、仕事への満足度も低い傾向があることが確認された。
本研究では、時間貧困を定量的に測定できる国際的な指標である主観的時間貧困尺度[2]の日本語版を開発し検証した。
研究背景
仕事と家事を両立する働く世代は、近年、仕事や家事・育児など、さまざまな役割を同時にこなさなければならず、「やるべきことが多すぎて、十分な時間が確保できない」と感じる傾向があります。こうした状態は「時間貧困」と呼ばれ、仕事や通勤の影響によって、生活に不可欠な睡眠や余暇、育児などの時間が不本意に削られてしまう状況を指します。特に働く世代では、仕事の負担に加えて家事や育児の時間も求められるため、自分の時間を持てないと感じることが少なくありません。加えて、日本では長時間労働が一般的とされる傾向があり、家事・育児の負担が一部の人に偏りやすいことや、仕事を優先する風潮も、時間貧困を深刻化させる要因の一つとなっています。こうした状況は、個人の休息時間を削り、心身の健康に悪影響を及ぼす可能性があります。
そこで本研究では、時間貧困の実態とその影響を明らかにすることを目的に、横浜市在住の結婚・子育て世帯1万世帯を対象とした大規模なアンケート調査を通して、その分析・検討を行ないました。本調査では、時間貧困を測定する国際的な指標である「主観的時間貧困尺度」の日本語版を新たに開発し、検証しました。
研究内容
① 時間貧困と暮らしの関係性
横浜市在住の結婚・子育て世代1万世帯を対象に大規模なアンケート調査を通して、1,979名の回答を分析しました。その結果、時間が足りないと感じている回答者ほど、睡眠時間や余暇時間が短い傾向があることが明らかになりました。これは、休息や気分転換の時間を十分に確保できていない状況を示しています。さらに、時間が足りないと感じている回答者は、幸福感が低く、心理的ストレスや社会的孤立感が強く、仕事への満足度も低い傾向が見られました。暮らしに時間のゆとりがないことが、心身の健康や人間関係、働く意欲にも影響を及ぼしている可能性があります。また、働く世代の睡眠時間の減少や心理的負担、社会的孤立は、その後、子どもにも影響を及ぼす可能性があることが、これまでの研究でも指摘されています。したがって、働く世代の時間的ゆとりを確保することは、親自身だけでなく、子どもの暮らしや成長にもつながる重要な課題であることが考えられます。
1)睡眠時間と時間貧困の関係
平日の睡眠時間が7時間を下回ると、時間貧困指標の合計点数(6~42点)が高くなる(時間が足りないと強く感じる)傾向が確認されました。
[画像1]https://digitalpr.jp/simg/1706/107924/450_366_2025041114171167f8a5d78b8aa.jpg
2)余暇時間と時間貧困の関係
平日の余暇時間が3時間を下回ると、時間貧困指標の合計点数(6~42点)が高くなる(時間が足りないと強く感じる)傾向が確認されました。
[画像2]https://digitalpr.jp/simg/1706/107924/450_383_2025041114173267f8a5ec68d3f.jpg
3)幸福感と時間貧困の関係
時間貧困指標の合計点数(6~42点)が高くなる(時間が足りないと強く感じる)ほど、主観的幸福感が低くなる傾向が確認されました。なお、主観的幸福感は0(不満)から10(満足)までの10段階で評価されています。
[画像3]https://digitalpr.jp/simg/1706/107924/450_375_2025041114173767f8a5f1d1cd9.jpg
4)仕事の満足感と時間貧困の関係
また、仕事の満足感についても同様に、時間貧困指標の合計点数(6~42点)が高いほど満足度が低くなる傾向が確認されました。仕事の満足感も、0(不満)から10(満足)までの10段階で評価されています。
[画像4]https://digitalpr.jp/simg/1706/107924/450_376_2025041114174267f8a5f607e50.jpg
② 時間貧困尺度日本語版の開発
本研究では、時間貧困の実態を把握するための国際的な指標である「主観的時間貧困尺度」の日本語版を開発し、その信頼性と妥当性を検証しました。日本語版の開発には、横浜市立大学の医学・看護学・経済学・データサイエンスなど、さまざまな専門分野の研究者が関わり、内容の調整と検討を重ねました。この尺度により、これまで可視化が難しかった時間の使い方や日常生活における負担感を定量的に把握することが可能となり、今後の働き方や子育て支援、地域政策の検討にも活用されることが期待されます。
1)日本語版主観的時間貧困尺度の開発
[画像5]https://digitalpr.jp/simg/1706/107924/500_272_2025041114174567f8a5f930e46.jpg
2)日本語版主観的時間貧困尺度(Perceived Time Poverty Scale:PTPS)
[画像6]https://digitalpr.jp/table_img/1706/107924/107924_web_1.png
今後の展開
今後は、政策の動向や仕事や家庭におけるライフステージの変化などを踏まえ、そうした変化と時間貧困をはじめとする各指標との関連について検討を進めていきます。本指標を含む大規模アンケート調査は2026年度まで継続して実施される予定であり、今後も引き続き調査・分析を行っていく予定です。
研究費
本研究は、横浜市と連携協定を締結して取り組みを進める「家庭と子育てに関するコホート研究(ハマスタディ)」の一環として行われ、横浜市立大学 学長裁量事業 学術的研究推進事業「YCU未来共創プロジェクト」および横浜市立大学 創立100周年記念事業募金「新たな研究創生プロジェクト」の支援を受けて実施しました。また、本研究は日本医療研究開発機構(AMED)の研究助成(Grant Number: JP23rea522102)の支援を受け、一部資金提供を受けて実施されました。
論文情報
タイトル: Development of the Japanese version of the Perceived Time Poverty Scale
著者:Takeshi Miura, Koji Hara, Azusa Arimoto, Masato Kaneko, Sayuri Shiraishi, Shingo Matsumura, Shuichi Ito, Kentaro Kurasawa, Yohei Matsuzaki, Makoto Kuroki
掲載雑誌: PLOS ONE
DOI:https://doi.org/10.1371/journal.pone.0320807
[画像7]https://digitalpr.jp/simg/1706/107924/300_55_2025041115064167f8b17159c5b.png
参考
[1] ハマスタディWEBサイト:https://www.hamastudy.net/
[2] Zheng, X., Zhang, Q., Li, X., & Wu, B. (2022). Being busy, feeling poor: The scale development and validation of perceived time poverty. International Journal of Selection and Assessment, 30(4), 596–613. https://doi.org/10.1111/ijsa.12395
用語説明
*1 時間貧困:最低限必要な生活時間が労働・通勤時間によって確保できない状態で、睡眠・余暇・育児時間を不本意に削減している状況。未就学児を持つ共働き世帯の女性は8割が時間貧困であるといわれている。
2024年に発足した、横浜市立大学「子育て世代の時間貧困解消と男女共同参画を目指した産学官共創ラボ」では、民間事業者、NPO、研究機関、行政等の産学官共創により、時間貧困など社会課題の解決を目指している。
https://www-user.yokohama-cu.ac.jp/~ycap_labo/
プレスリリース情報提供元:Digital PR Platform
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