世界初、陸上フィールド環境における最大455テラビット毎秒の空間多重長距離光伝送実験に成功 ~結合型マルチコアファイバケーブル伝送による1,000 kmまでの長距離化も実証~

プレスリリース発表元企業:日本電信電話株式会社

配信日時: 2024-12-09 15:06:36







発表のポイント:

風雨などの外乱によって光ファイバケーブル内の信号伝搬環境が変動するフィールド環境下において、安定した世界最大容量455テラビット毎秒(現行システムの50倍以上)の伝送実験に世界で初めて成功しました。
量産化に適した既存光ファイバと同等の細さを有する12結合マルチコアファイバを商用の高密度多心ケーブルに実装・接続し、かつ、大規模MIMO信号処理技術の開発により、外乱がある状態でも1,000 km超(東名阪相当)の大容量長距離伝送を実現しました。
この成果は世界最大の光通信の国際会議ECOC2024にて最難関発表セッションの最優秀論文として認められました。

 日本電信電話株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:島田明、以下「NTT」)は、外乱によって光ファイバケーブル内の信号伝搬環境が変動するフィールド環境下において、安定した最大455テラビット毎秒の信号伝送の実証に世界で初めて成功しました。
 実証実験では、量産化に適した既存光ファイバと同等の細さを有する12コアファイバを商用の高密度多心ケーブルに実装・接続した陸上フィールド環境において、大規模MIMO(※1)信号処理技術を適用することで、53.5 kmの伝送距離で455テラビット毎秒の大容量伝送を実証しました。さらに日本の基幹光ネットワークの大動脈である東名阪区間をカバー可能な1,017 kmの伝送距離において大容量389テラビット毎秒の中継増幅伝送に成功しました(図1)。本成果は、従来の50倍以上の伝送容量を持つ将来の陸上光伝送システムを実現する基盤技術として期待されます。
 今回の成果は、2024年9月にフランクフルトで開催された光通信技術に関する世界最大の国際会議(50th European Conference on Optical Communications (ECOC))の最難関発表セッションであるポストデッドライン論文[1]として採択・発表されました。なお本成果は、住友電気工業株式会社(以下「住友電工」)と学校法人 千葉工業大学(以下「千葉工大」)と共に実施した国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT(エヌアイシーティー))からの委託研究で得られた成果を一部含んでいます。


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図1:世界初の陸上フィールド環境における12結合マルチコアファイバケーブルを用いた大容量長距離光伝送実験

1.背景
 大容量モバイルネットワークの普及や発展し続けるAI技術を支えるデータセンター間の通信増に伴い、世界を行き交うデータの量は指数関数的に増加しつづけています。この傾向は今後も続くと予想され、需要を支えるために陸上基幹光ネットワークは継続的な大容量化への対応が必要です。
 現在のネットワークでは、光通信の商用導入以来40年以上、1本のファイバにコアと呼ばれる光が通る導波路を1本持つ構造の光ファイバが用いられています。これに対し、ファイバあたりのコアの数を増やし、光信号を並列に送信することで空間チャネル数を増やすマルチコアファイバなどによる空間分割多重光伝送の研究開発が進展しており、伝送容量の拡大を可能とする将来の大容量基幹光ネットワークの基盤技術として期待されています。既存システムとの親和性と量産性の観点から既存光ファイバと同じ細さ(0.125 mm)を保ったまま、空間チャネル数を10以上に拡張するためには、隣接するコア間の光信号を意図的に混信させる結合型マルチコアファイバ(※2)が有望視されています。結合型マルチコアファイバでは、信号を受信した後の受信機においてデジタル信号処理と組み合わせることにより結合を解くことができるため大容量光伝送が実現可能です。同様の高い空間チャネル数が実現可能なマルチモードファイバと比較して、光信号の伝搬状態の設計の自由度が高く、特に伝搬遅延ばらつき(※3)を低減可能な特長があります。これにより、風雨などの外乱による実環境の変動に追従するためのデジタル信号処理の計算量を小さくすることができ、消費電力やコストを削減した光伝送を実現することが期待できます。
 これまでの結合型マルチコアファイバの研究では、主に実験室環境に置かれたファイバ素線を用いて、大洋横断級長距離伝送の実現可能性(※4)などが検証されてきました。一方、同ファイバを用いた陸上伝送システムの実用化へ向けては、時々刻々と光ファイバケーブル内の信号伝搬環境が変動するフィールド環境における安定的な大容量伝送の検証が重要です。
 本成果では、12個のコア間で信号の結合が発生する12結合コアファイバを、伝搬遅延ばらつきを大幅に低減しながらケーブル化し、陸上フィールド環境を模擬したとう道・架空区間へ敷設しました。敷設環境における保守作業や風雨などの外乱に追従可能な精密な大規模MIMO信号処理技術との融合により、世界初の12コアファイバフィールド光増幅中継伝送実験に成功し、安定的な大容量伝送の実現可能性を世界に先駆けて示しました (図2)。


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図2:本成果の位置づけと既存光ファイバと同じ標準的な外径(細さ)を持つファイバを用いたフィールド環境における大容量空間分割多重伝送実験の動向

2.技術のポイント
① マルチコアファイバフィールド検証環境
 本成果では、NTT横須賀R&Dセンタ敷地内に全長4.86 kmの12結合コアファイバケーブルを敷設し、大規模な伝送実験が可能なフィールド検証環境を整備しました(図3,左)。ケーブルの大部分は地下のとう道に敷設されているほか、0.2 kmほどは地上の電柱間にケーブルを架けた空中配線区間となっており、実際の陸上フィールド敷設環境を模擬しています。敷設に当たっては、商用システムと同様の構成の200心ケーブルの一部に12結合コアファイバを実装しました。この実装においては、コア間の結合状態を考慮したファイバ[2]とケーブル[3]の設計により、世界最小級の伝搬遅延ばらつきとケーブル化後の曲げ特性を含めた低い伝送損失を両立しており、長距離光伝送に適した波長帯(C帯) (※5)全域を含む広い光帯域を用いた大容量波長分割多重(※6)伝送がサポート可能です。

② 結合型マルチコアファイバ間低損失接続技術
 商用システムの陸上ネットワークは中継地点間に多数の融着点・あるいはコネクタ接続点を含みます。今回、新たに開発された高精度な結合型マルチコア融着機能を実現する住友電工によるファイバ融着技術と、安定な低損失接続を実現する千葉工大によるコネクタ技術 [4] (図3,右)をフィールド検証環境内のマルチコアファイバ間直接接続に適用しました。どちらも接続点あたりの光損失が従来のシングルモードファイバ同士の接続と同水準の低損失での接続を実現しています。また空間チャネル間の損失ばらつき(※7)も少なく、安定的な伝送に寄与しています。本実験では、ケーブル内の11本のファイバを折り返し接続することによって、一周53.5 kmのフィールド環境周回伝送評価系(※8)を構成しました。


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図3:敷設されたマルチコアケーブルの敷設区間概要(左)とマルチコアコネクタ(右)

③ 超大容量MIMO送受信技術
 受信機におけるデジタル信号処理として、ダイナミックに変動する光の結合状態や光送受信機内部の理想からのずれを超高精度に補償するMIMO信号処理技術を適用し、最大1,000 km以上の伝送後の歪んだ受信信号から送信信号を復調しています。高速かつ周波数を効率的に使用可能な信号のフォーマットとして、シンボルレート140ギガボー(※9)の偏波多重PCS-36QAM(※10)信号を採用しました。NTTが研究してきた回路技術とデジタル信号処理技術を組み合わせることで、一波長チャネルあたり最大15.0 テラビット毎秒の大容量チャネル構成を実現しました。本伝送実験では、12コア多重と同時に、C帯全域の4.65 THz帯域にわたって、31波長チャネルの波長分割多重を組み合わせることで大容量化を達成しています。

3.大容量フィールド伝送成果の概要
 本実験では、はじめにフィールド検証環境の信号品質を特徴づけるパラメータである伝搬遅延ばらつきと光損失ばらつきを1時間にわたって評価し安定した値を示すことを確認しました(図4)。これは、フィールド環境における安定的な空間・波長分割多重伝送の実現可能性を支持する結果です。


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図4:敷設した12結合コアファイバ伝送路の伝送パラメータの時間依存性評価結果

 次に、各波長チャネル信号の伝送後の信号品質評価を実施しました(図5)。その結果、伝送距離53.5 kmにおいて、各波長信号がそれぞれ14 テラビット毎秒以上の伝送容量を持ち、総伝送容量は455テラビット毎秒に達することを確認しました。これは、これまで陸上フィールド環境で実施された空間分割多重伝送実験で最大のものであり、現行陸上システム(※11)の50倍以上の伝送容量に相当します。さらに、伝送距離1,017 kmにおいても、それぞれ12テラビット毎秒容量以上の波長信号により総伝送容量389テラビット毎秒の容量を達成しました。この距離は日本の基幹光ネットワークの大動脈である東名阪区間をカバー可能な距離であり、将来的には、10以上コアを持つ結合型マルチコアファイバによる陸上フィールド環境の大容量長距離光増幅中継伝送システムの実現に寄与することが期待されます。


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図5:大容量フィールド伝送結果

4. 今後の展開
 今後、関連技術分野と連携し本技術の研究開発をさらに進めることで、2030年代のIOWN(※12)構想・Beyond 5G/6G時代の大容量光伝送基盤の実現に貢献する、大容量陸上ネットワークの実用化をめざします。

本研究への支援
本成果の一部は、国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT(エヌアイシーティー))の委託研究(JPJ012368C01001)により得られたものです。

【参考文献】
[1] A. Kawai, K. Shibahara, M. Hoshi, M. Nakamura, T. Kobayashi, R. Imada, T. Mori, T. Sakamoto, Y. Yamada, K. Nakajima, M. Nagatani, H. Wakita, Y. Shiratori, H. Yamazaki, H. Takahashi, S. Endo, T. Hasegawa, R. Nagase, and Y. Miyamoto, "389.3-Tb/s 1017-km C-band Transmission over Field-Installed 12-Coupled-Core Fiber Cable with >12-Tb/s Spatial MIMO Channels," in Proceedings of 50th European Conference on Optical Communications, Frankfurt, Germany, 2024, Th3B.1.
[2] R. Imada, T. Sakamoto, T. Mori, Y. Yamada, and K. Nakajima, "Bending Loss and Cut-Off Wavelength Properties of Randomly Coupled Multi-Core Fiber," Journal of Lightwave Technology (Early Access).
[3] T. Mori, R. Imada, T. Sakamoto, Y. Yamada and K. Nakajima, "Randomly-coupled multi-core fibre cable with flattened spatial mode dispersion over S-L band," in Proceedings of 49th European Conference on Optical Communications, Glasgow, UK, 2023, pp. 163-166.
[4] Y. Fujimaki, S. Takura, D. Nozaki, and R. Nagase, “Connection characteristics of coupled multi-core fiber connectors,” in Proceedings of 2023 IWCS Cable & Connectivity Industry Forum, Orlando, United states, pp. 7-2, 2023.

【用語解説】
※1.MIMO:
日本語で多入力多出力を意味します。元々、無線分野の技術用語であり、送受信機の間で複数の異なるデータの並列的な通信を同一の周波数で行う技術を指します。光伝送分野の場合でも光ファイバ中の偏波や空間モードを利用することでMIMO技術による伝送容量の向上が期待できます。

※2.結合型マルチコアファイバ:
光ファイバ内に複数の光伝送路(コア)を設け、各コアから漏れ出る光信号同士の干渉を適切に設計することで、長距離伝送に適した伝搬特性を持つように設計された光ファイバのことを指します。

※3.伝搬遅延ばらつき:
各コアを通る光信号間の受信機への到着時間のばらつきを示す指標です。この値が大きいと、受信側信号処理の負荷が増大し、信号処理回路の消費電力などの増加につながります。

※4.
報道発表「NECとNTT、世界初、12コア光ファイバーによる7,000km以上の長距離伝送実験に成功~大洋横断級光海底ケーブルの大容量化に向けて前進~」
https://group.ntt/jp/newsrelease/2024/03/21/240321a.html
https://jpn.nec.com/press/202403/20240321_04.html

※5.C帯:
C帯(1530 - 1565nmの波長範囲で定義)は、石英光ファイバの低損失波長として、長距離光通信に用いられる代表的な光通信波長帯であり、国際通信連合(ITU-T)で国際標準化されています。

※6.波長分割多重:
一本のファイバ内に様々な波長(光の色)の信号を並列して伝送することで、総伝送容量を増加させる方式です。

※7.損失ばらつき:
結合型マルチコアファイバ内で発生する各モードを通る光信号間の損失差を示す指標です。この値が大きいと総伝送容量の減少につながるほか、信号伝送の安定性が損なわれます。

※8.周回伝送評価系:
光増幅器や伝送路ファイバをループ状に接続し、光スイッチで光信号の入出力タイミングをコントロールすることで、少ない機材で、長距離の光増幅中継伝送を試験できる実験方式です。

※9.ギガボー(シンボルレートの単位):
1秒間に光波形が切り替わる回数。140ギガボーの光信号は、光波形を1秒間に1400億回切り替えて情報を伝送しています。

※10.PCS-36QAM:
PCS(Probabilistic Constellation Shaping)とは、情報理論に基づき信号点の分布と配置を最適化することにより、信号伝送に必要な信号対雑音比の条件を軽減する技術です。QAM(Quadrature Amplitude Modulation)とは、信号光の振幅と位相の両方に情報を乗せる変調方式で、36QAMは36点の信号点を有しています。PCS技術をQAM方式に適用することにより、伝送路条件に応じて信号品質を最適化することが可能となります。

※11.現行陸上システム:
波長チャネルあたり100ギガビット毎秒の伝送レートで80波長チャネルの信号を波長多重化することにより、ファイバあたり8テラビット毎秒容量の伝送が可能です。
https://journal.ntt.co.jp/backnumber2/1410/files/jn201410054.pdf

※12. IOWN:
https://group.ntt/jp/newsrelease/2019/10/31/191031a.html

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