3歳までに口腔細菌叢(※1)の基盤が確立される 乳幼児期の縦断研究(※2)から口腔細菌叢の形成が進む時期を解明

プレスリリース発表元企業:ライオン株式会社

配信日時: 2024-11-14 11:00:00



ライオン株式会社(代表取締役兼社長執行役員:竹森 征之)は、予防歯科の普及・啓発のため、お口に関する様々な実態調査を長年実施しています。2015年からは、公益財団法人ライオン歯科衛生研究所(理事長:濱 逸夫)と共同で、口腔細菌叢の形成過程を理解するため、子どもとその両親を対象に縦断研究を行っています。2021年には、生後1週間から3歳時点での解析から、大人の口腔細菌叢に近づく重要な時期が生後6か月~1歳半であることを明らかにしました(※3)。今回、新たに5歳までの解析を進めた結果、口腔細菌叢の基盤が3歳までに確立されることを見出しました(図1)。この一連の研究成果は、2024年10月12日付けで国際歯科研究学会(IADR)、国際歯科研究学会米国部会(AADOCR)の歯科学分野を網羅する科学雑誌『Journal of Dental Research』に掲載されました。本研究から得られた主な知見は以下のとおりです。
(※1) 口腔環境に生育する細菌の集団。出生直後の口腔環境はほぼ無菌であるが、個人の体質・体調、食生活や生活習慣などの影響を受け、個人特有の細菌の集団を形成していくと考えられている。
(※2) 同じ被験者を長期間にわたって追跡調査する研究。
(※3) 2022年3月24日発表資料「乳幼児期の早い段階からのお口のケアが大事! 生後6か月~1歳半は大人の口腔細菌叢に大きく近づく重要な時期」 https://doc.lion.co.jp/uploads/tmg_block_page_image/file/8021/20220324.pdf

◆口腔細菌叢を構成する主要な細菌の検出時期を調査
大人の口腔細菌叢を構成する主要な菌種のうち、約8割が1歳半で、約9割が3歳で検出された。
◆細菌叢の類似度評価指標(Weighted UniFrac距離)を用いて大人に類似する時期を調査
1歳半までに大人の口腔細菌叢に大きく近づき、3歳から5歳にかけて有意な変化は確認されなかった。
さらに、5歳での大人との距離は、大人同士の距離(大人の個人差)よりも小さいことを確認した。

以上の結果より、
3歳までの期間は将来の口腔細菌叢の基盤を確立する重要な時期であることが示唆された。


[画像1: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/39983/137/39983-137-83955f3680bbcd8b63bde20769e72d7d-1953x896.png?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]
                          図1. 研究概要


■  研究背景
う蝕や歯周病罹患者の口腔細菌叢は、口腔状態が良好な人とは異なり、細菌叢が乱れている可能性が報告されており、口腔細菌叢を整えておくことが口腔疾患の予防に重要であると考えられています。そこで当社と当該財団は、口腔細菌叢の形成過程を理解することが重要であると考え、2015年から子どもとその両親を対象とした縦断研究を開始しました。2021年に、乳幼児の口腔細菌叢は、共同生活を続ける親の口腔細菌叢の影響を受けて形成される可能性を明らかにしています(※4)。今回は、大人の細菌叢に近づく時期を明らかにするために、5歳までの口腔細菌叢の形成過程を、大人(両親)の口腔細菌叢と比較しました。
(※4) R Jo et al. Comparison of oral microbiome profiles in 18-month-old infants and their parents, Sci Rep, 13;11(1):861, 2021

■ 主な研究結果
本研究では、2015年6月から2017年1月までに生まれた54名の子ども(男児27名、女児27名)とその両親を調査対象としました。両親からは、子どもが1歳半と3歳になった時点の計2回、洗口吐出液として唾液を採取しました。一方、子どもたちからは、生後1週間、1か月、3か月、6か月、9か月、1歳、1歳半、2歳、2歳半、3歳、3歳半、4歳、そして5歳時の計13回のタイミングでスワブに浸み込こませて唾液を採取しました。さらに5歳時には、両親と同じ方法の洗口吐出液としても唾液を採取しました。採取した唾液に含まれる口腔細菌由来の遺伝子配列を次世代シークエンサー(※5)で読み取り、口腔細菌叢の経時変化を解析しました。
(※5) 大量の遺伝子配列を決定できる装置。環境中に存在する細菌の遺伝子配列を決定することで、そこに存在する菌種の把握等に用いられている。

(1)大人の口腔細菌叢を構成する主要な細菌の検出率の推移
父母それぞれ85%以上の人から検出された菌種を、大人の口腔細菌叢を構成する主要な細菌と定義し、子どもからの検出率の推移を調査しました(図2)。その結果、生後6か月~1歳半にかけてこれら細菌の検出率が急激に増加し、1歳半で約8割、3歳で約9割が検出され、3歳以降5歳までは大きな変化はありませんでした(図2)。また、1歳半までに検出されるようになった菌種には、Neisseria属やHaemophilus属などのう蝕や歯周病の予防に寄与する可能性のある硝酸還元細菌(※6)の他、多様な菌種が含まれていました。
※6 Rosier BT et al. :The Importance of Nitrate Reduction for Oral Health, J Dent Res, 101(8):887-897, 2022

[画像2: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/39983/137/39983-137-4625f0337acf9acbc7c0fb294befd6da-1130x732.png?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]
                 図2. 大人の口腔細菌叢を構成する主要な細菌の検出率の推移



(2)大人の口腔細菌叢との類似度の推移
細菌叢の類似度を評価する距離指標(Weighted UniFrac距離)を用いて、子どもの口腔細菌叢が大人の口腔細菌叢に近づく時期を調査しました。その結果、1歳半までに大人の口腔細菌叢に大きく近づき、3歳から5歳の間には有意な変化は確認されませんでした(図3)。また、子どもの口腔細菌叢がどのくらい大人に近づいたのか、口腔細菌叢の形成度を評価するために、大人と同じ採取法で取得した5歳のデータを大人と比較しました。その結果、5歳時点の子どもと大人の口腔細菌叢との距離は、大人同士の口腔細菌叢の距離(大人間の個人差)よりも小さく、大人の個人差の範囲内に収まることが確認されました(図4)。

[画像3: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/39983/137/39983-137-cf1b238fc45bc6a84bfa60a7bd3e0742-1236x707.png?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]
                        図3. 大人の口腔細菌叢との類似度の推移

                           検定方法:Steel.Dwass検定
                             N.S.:p値 > 0.05


[画像4: https://prcdn.freetls.fastly.net/release_image/39983/137/39983-137-ea19bc5da2e30587ae457ac4b4195199-1157x637.png?width=536&quality=85%2C75&format=jpeg&auto=webp&fit=bounds&bg-color=fff ]
               図4. 5歳時点での子ども同士、大人同士、子どもと大人間の口腔細菌叢の類似度比較

                           検定方法:Steel.Dwass検定
                              *:p値 < 0.01


 以上の結果より、3歳までに大人の口腔細菌叢を構成する主要な菌種の多くが口腔内に定着し、3歳から5歳にかけて大人との類似度に有意な変化はなく、5歳時点での口腔細菌叢は大人と比較しても大差がないほど形成が進んでいることが分かりました。本縦断研究により、3歳までの期間が子どもの口腔細菌叢の基盤が確立する時期であることが示唆され、特に1歳半までの期間においては、口腔細菌叢の形成が急激に進行し、う蝕や歯周病の予防に寄与する可能性のある細菌も構成菌種に加わることが明らかとなりました。
これまで、口腔細菌叢の乱れが口腔疾患(う蝕や歯周病)の発症に関連する可能性(※7)が報告され、当社の研究からは、口腔細菌叢の乱れは歯科治療後も残存する可能性を見出しております(※8)。すなわち、口腔細菌叢を乱さないことは、予防歯科の観点からも重要と考えられます。今回得られた知見から、子どもの乳歯が生えそろう3歳頃までの口腔細菌叢形成が、生涯にわたり良好な口腔状態を維持するために重要であることが示唆されました。
(※7) M Kilian et al. :The oral microbiome - an update for oral healthcare professionals, Br Dent J, 221(10):657-666, 2016
(※8) K Yama et al. :Dysbiosis of oral microbiome persists after dental treatment-induced remission of periodontal disease and dental caries, mSystems, 26;8(5):e0068323, 2023

■ 今後の展望
ライオンは、オーラルヘルス領域の基本的考え方に基づく全ての企業活動を「LIONオーラルヘルスイニシアチブ(※9)」として展開しており、本研究もこの一環として実施しています。今後も、口腔細菌叢を考慮した新たな視点からの予防法が重要であると考え、お口を起点とした健康増進への貢献を目指してまいります。
(※9) 当社の中長期経営戦略フレーム「Vision2030」実現に向けたオーラルヘルス領域活動の総称。
概要は、2022年8月8日発表資料(https://doc.lion.co.jp/uploads/tmg_block_page_image/file/8251/20220808a.pdf

【論文情報】
・タイトル:Oral microbiota development in the first 60 months: A longitudinal study
・著者:Kazuma Yama, Seiji Morishima, Kota Tsutsumi, Ryutaro Jo, Yuto Aita, Takuya Inokuchi, Takuma Okuda, Daisuke Watai, Kanta Ohara, Masato Maruyama, Takashi Chikazawa, Taku Iwamoto, Yasushi Kakizawa, Takayuki Oniki
・掲載雑誌名:Journal of Dental Research(Sage Publications Ltd) DOI:10.1177/00220345241272011.

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