新型コロナ拡大により国内の往診やターミナルケア、看取りが急増
配信日時: 2024-09-04 10:28:20
東京慈恵会医科大学 総合医科学研究センター 臨床疫学研究部の青木拓也准教授、松島雅人教授らの研究グループは、飯塚病院 総合診療科の柴田真志医師と共同で、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックが日本の在宅医療のサービス利用に与えた影響を調査し、往診とターミナルケア(終末期医療)、看取り(在宅での死亡)が急増していたことを明らかにしました。
これらの知見は、医療政策上における在宅医療の重要性を再評価し、将来の感染症流行に備えた在宅医療需要の予測や医療資源の配分を再検討するための基礎資料となるものです。
本研究の成果は、9月4日にJournal of General Internal Medicine誌オンライン版に掲載されます。
研究成果
本研究では在宅医療サービスのうち、訪問診療・往診・ターミナルケア・看取りの4つを解析の対象としました。
分析の結果、パンデミック発生前と発生後での訪問診療の利用回数には有意な変化が見られませんでしたが、往診は増加傾向(1,258回/月、95%信頼区間:43~2,473)を示しました。
ターミナルケアと看取り(在宅での死亡)には、パンデミック発生直後からそれぞれ急激な増加(1,116回/月、95%信頼区間:549~1,683)、1,459回/月(95%信頼区間:612~2,307)がみられ、その後も増加傾向でした。
ターミナルケアについては、介護施設の患者に比べ、自宅の患者でパンデミック発生直後から急激な増加がみられました。
在宅医療を提供する医療機関のうち、在宅療養支援診療所・病院でより大きなターミナルケアの増加が見られました。
本結果から、コロナ禍において在宅医療は、自宅や施設で過ごす患者の緊急の往診や終末期ケアの急増に対応する重要な役割を担っていたことが示されました。
研究メンバー:
・東京慈恵会医科大学 総合医科学研究センター 臨床疫学研究部 准教授 青木拓也
・東京慈恵会医科大学 総合医科学研究センター 臨床疫学研究部 教授 松島雅人
・飯塚病院 総合診療科 柴田真志
【本研究内容についてのお問い合わせ先】
東京慈恵会医科大学 総合医科学研究センター 臨床疫学研究部 准教授 青木拓也
電話:03-3433-1111(代)
【報道機関からのお問い合わせ窓口】
学校法人慈恵大学 経営企画部 広報課 電話 03-5400-1280 メール koho@jikei.ac.jp
研究の詳細
1. 背景
COVID-19パンデミックは世界中の医療サービス利用に影響を与えました。これまでの研究では、医療サービス利用全体の約3分の1が減少し、本邦においても外来受診控えや入院の減少が報告されています。注1)
一方で在宅医療は、COVID-19パンデミックにおいて最もリスクの高い、高齢者や終末期患者へのケアを外出に伴う感染リスクを回避しながら提供する独自の役割を担っています。COVID-19パンデミック以降の在宅医療の利用の変化は国によってさまざまですが、本邦の在宅医療利用がどの程度変化したのか、その実態はほとんど検証されていませんでした。
そこで本研究では、全国規模の悉皆性の高い医科レセプトデータベースを解析することで、COVID-19パンデミックによって生じた本邦の在宅医療利用の変化の実態を明らかにすることを目的としました。
2. 手法
本研究は、オープンデータを用いた反復横断研究です。レセプト情報・特定健診等情報データベース (NDB; National Database of Health Insurance Claims and Specific Health Checkups of Japan)は厚生労働省が管理するレセプト情報のデータベースで、日本の医療機関が提供する医科レセプトの約98%をカバーしています。厚生労働省は、この包括的なデータから普遍的に適用可能な集計表を作成し、NDBオープンデータとして公開しています。注2)本研究では、第6回から第8回のNDBオープンデータ(2019年4月から2022年3月までの期間をカバー)の集計表を使用し、特定の在宅医療サービスの1ヶ月あたりの利用回数を時系列データとして抽出しました。
本研究では在宅医療サービスのうち、訪問診療、往診、ターミナルケア(ターミナルケア加算)、在宅での死亡(看取り加算および死亡診断加算の合計)の4つを解析の対象としました。ターミナルケアについては患者が在宅医療を受ける場所が自宅または介護施設か、また在宅医療を提供する医療機関の分類が機能強化型の在宅療養支援診療所および病院(在支診・在支病)、従来型の在支診・在支病、一般の診療所および病院のいずれかによって分かれた集計を抽出することができたため、これらで層別化した分析を追加で実施しました。
統計解析では、COVID-19パンデミックによる在宅医療サービスの月間利用回数の変化を定量的に評価するため、分割時系列分析という手法を用いました。COVID-19パンデミックの始まりを日本政府が緊急事態宣言を発出した2020年4月に設定して、パンデミック直後の急激な増加(レベル変化)とそれ以降の経時的な増加傾向(トレンド変化)を、パンデミックがなかったと仮定した場合の反実仮想モデルと比較しました。
3. 成果
分割時系列分析の結果、訪問診療の利用回数に変化は見られませんでした。一方、往診では経時的な増加傾向が観察されました(レベル変化:686回/月、95%CI: -8,733~10,105;トレンド変化:1,258回/月、95%CI: 43~2,473)。ターミナルケアではパンデミック直後に1,116回/月(95%CI: 549~1,683)と急激な増加を示し、その後も141回/月(95%CI: 73~209)の経時的な増加傾向を示しました。同様に、在宅での死亡もパンデミック直後に1,459回/月(95%CI: 612~2,307)と急激な増加を示し、その後も215回/月(95%CI: 114~317)の経時的な増加傾向を示しました。
ターミナルケアを患者が在宅医療を受ける場所に層別化すると、介護施設にいる患者ではパンデミック直後の急激な増加はみられず(46回/月、95%CI: -109~201)、47回/月(95%CI: 29~66)の経時的な増加傾向のみが観察されました。対照的に、自宅にいる患者では水準がパンデミック直後から1,070回/月(95%CI: 630~2,770)と急激に増加し、その後も94回/月(95%CI: 41~147)の経時的な増加傾向を示しました。在宅医療を提供する医療機関の分類で層別化すると、利用回数は機能強化型在支診・在支病、従来型在支診・在支病、一般診療所および病院の順に大きく増加していました。
4. 今後の応用、展開
本研究は私たちの知る限りで、在宅医療のサービス利用がコロナ禍によって受けた影響を定量的に明らかにした、初の全国規模のデータベース研究です。
本研究の成果により、COVID-19パンデミックによって在宅医療のうち往診やターミナルケアの利用が急増し、在宅医療サービスがコロナ禍における緊急の対応や終末期ケアといった重要な役割を担っていたことが示されました。これらの知見は、現在の在宅医療が担っている患者中心のケア提供モデルとしての役割を再評価し、また将来の感染症流行時における在宅医療サービスの需要を予測し、医療資源の戦略的分配を再検討するための貴重な基礎資料となるものです。
5. 論文情報
Shibata M, Aoki T, Matsushima M, Impact of the COVID?19 Pandemic on Home Medical Care Utilization in Japan: An Interrupted Time Series Analysis, Journal of General Internal Medicine, 2024. https://doi.org/10.1007/s11606-024-09003-2
6. 脚注、用語説明
注1)
Moynihan R, Sanders S, Michaleff ZA, et al. Impact of COVID-19 pandemic on utilisation of healthcare services: a systematic review. BMJ Open. 2021;11(3):e045343.
Takakubo T, Odagiri Y, Machida M, et al. Changes in the medical treatment status of Japanese outpatients during the coronavirus disease 2019 pandemic. J Gen Fam Med. 2021;22(5):246?61.
Aoki T, Matsushima M. The Ecology of Medical Care During the COVID-19 Pandemic in Japan: a Nationwide Survey. J Gen Intern Med. 2022;37(5):1211-1217.
Yamaguchi S, Okada A, Sunaga S, et al. Impact of COVID-19 pandemic on healthcare service use for non-COVID-19 patients in Japan: retrospective cohort study. BMJ Open. 2022;12(4):e060390.
注2)
厚生労働省. NDBオープンデータ
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000177182.html
訪問診療:事前に計画して、医師が患者の自宅や施設を訪れて行う診療のこと。2週間に1回程度の頻度で定期的に行われる。
往診:患者や家族からの求めにより緊急で、医師が患者の自宅や施設に訪れて行う診療のこと。
在宅療養支援診療所および病院:在宅患者をサポートする機能を持った特別な診療所や病院のこと。24時間体制の往診が可能な従来型と、それに加えて医師の人数や往診、看取りの実績といった基準をクリアした機能強化型の2種類が存在する。
以上
本件に関するお問合わせ先
学校法人慈恵大学 広報課
メール:koho@jikei.ac.jp
電話:03-5400-1280
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