ブルーオーチャードマイクロファイナンス市場見通し

プレスリリース発表元企業:シュローダー・インベストメント・マネジメント株式会社

配信日時: 2024-08-02 10:04:52


2024年に2,321億8,000万米ドルと推定される世界のマイクロファイナンス市場は、今後5年間に年率10.58%で成長し、2029年には3,838億9,000万米ドル(約60兆円)に達すると予測されています。このような環境下、フィナンシャル・インクルージョンのニーズが特に強いエマージング市場のさらなる成長が見込まれています。

2021年のグローバルなデータでは、成人の約76%が銀行、信用組合、マイクロファイナンス事業者、モバイルマネー・サービス・プロバイダー等の公的金融機関に口座を保有しています。これは、2011年から2021年までの10年間で、世界的に口座保有率が約50%急増したことを意味します。

一方で、世界銀行が提供するグローバルFindexデータベースによると、多少の進展は見られているものの、世界中で約14億人の成人が銀行サービスへのアクセスを有していません。特に女性や貧困層、教育水準が不十分な層など、特定の層にとっては、金融サービスは依然として利用しにくい状況です。女性や貧困層は特に脆弱で、身分証明書や携帯電話を持たず、金融機関から遠く離れた場所に住んでいる場合も多く、金融口座を開設し、活用するには援助が必要と言えます。このような課題はありますが、開発途上国におけるフィナンシャル・インクルージョンの男女格差は確実に縮小しており、2021年時点では9ポイントから6ポイントに近づいています。

今後については、マイクロファイナンス市場の拡大が予想されており、口座所有における男女格差の縮小がフィナンシャル・インクルージョンの強化に向けた大幅な進展を示唆していると考えます。マイクロファイナンスの継続的な進化は、特に十分なサービスを受けていないコミュニティにおいて、金融アクセス、平等の促進、経済的進歩のための有望な機会を提供していると言えます。特に、技術の進歩とデジタル化の進展はマイクロファイナンス市場に大きな影響を与え、エマージング市場におけるフィナンシャル・インクルージョンを加速させると見込んでいます。


地域別見通し

南アジア、東南アジア

南アジアおよび東南アジア地域の中期的な経済成長見通しは、インドネシア、フィリピン、ベトナムを中心とする主要消費市場における民間消費の伸び拡大が主な原動力となり、極めて良好となっています。民間消費と並行して、政府によるインフラ投資の増加が内需の成長ペースに拍車をかけると予想されます。これはまた、海外からの直接投資を呼び込み、東南アジアを世界的な投資ホットスポットとして位置づけるでしょう。

インドのマイクロファイナンスも良好なパフォーマンスを示しており、2023年9月にはマイクロファイナンスのローン・ポートフォリオ全体が前年同月比25%増加しました。この堅調な成長トレンドにより、マイクロファイナンス機関(MFI)セクターは2024年3月期には約28%の健全なローン・ポートフォリオ増加が予想されます。また、MFIの収益性は、利ざやの拡大により2023年度の2.7~3%から2025年度には3.2~3.5%に改善するとみられます。貸出金利と回収効率の向上も、純利ざやの拡大に寄与すると予測されます。このような動きは、ASEAN地域とインドのマイクロファイナンスセクターにおける良好で発展的な経済状況を示唆しており、将来の投資と成長のための活発で強固な道筋を進んでいくと考えます。


ラテンアメリカ

ラテンアメリカの2023年のGDP成長率(高所得国を除く)は2.2%と潜在成長率を下回ると予測されているものの、マイクロファイナンス・セクターには新たなビジネスチャンスが表れてきています。注目すべきトレンドとしては民間セクターの信用供与の増加であり、欧州(EU)の85%、米国の216%には及ばないものの、2016/17年の約45%に比べ、現在は53%に達しています。ブラジル、コロンビア、チリ等一部の国は、クレジット・プラットフォーム、デジタル決済システム、デジタル・ウォレットなどの革新的なソリューションを通じて、フィナンシャル・インクルージョンを促進するために技術の進歩を活用しています。

さらに、サプライチェーンにおける「ニアショアリング」の流れは、ラテンアメリカおよびカリブ海諸国の輸出を大幅に押し上げる可能性を秘めており、米州開発銀行(IDB)は年間780億ドルと見積もっています。ただし、ペルー、コロンビア、ブラジル等の一部のセクターで見られる不良債権に対して、詳細なモニタリングおよびデューデリジェンスを実施することが重要と考えます。一方、チリやグアテマラ等では前向きなトレンドが見られています。

さらに、ペルー、エクアドル、コロンビア等の国では、資本率が10%を上回り、強固な資本水準を維持しています。これらの要因を総合すると、ラテンアメリカのマイクロファイナンスセクターの中長期的な見通しは有望と考えます。


アフリカ

アフリカのマイクロファイナンス市場は現時点では規模は小さく、市場プレーヤーの数も限られていますが、今後数十年で人口動態が大きく成長する地域であり、労働年齢人口は2050年までに7億4,000万人増加すると予測されています。

2023年のアフリカ全体の経済成長率は3%と推定されていますが、地域によってばらつきがあります。東アフリカの2023年の成長率は1.8%、西アフリカは3.3%と予測されています。2024年以降の見通しは明るく、実質GDP成長率は地域全体で2024年に平均3.8%、2025年に平均4.2%と予想されています。アフリカ開発銀行によれば、2024年には世界で最も経済成長率の高い20カ国のうち11カ国がアフリカになると見込まれています。ただし、インフラ整備の課題や地域紛争によって経済活動が制約されている国もあります。

このような環境下、零細・中小企業(MSME)は、同地域の主要な雇用創出源として重要な役割を果たしています。中小企業は全企業の90%を占め、雇用の80%を担っています。しかし、こうした企業の信用アクセスは依然として限られており、国内の信用供与水準は、ラテンアメリカの平均53%に対し、36%未満にとどまっています。

なお、デジタル・ビジネスモデル、特にフィンテック企業の出現が、アフリカの金融業界の成長を牽引しています。世界的な投資の減速にもかかわらず、この分野の成長は続いています。マッキンゼーは、スマートフォン所有率の増加およびネットワークのカバー率拡大の中で、アフリカの金融サービス市場の潜在的な年間成長率は10%に達すると予測しています。


コーカサス、中央アジア

2022年初に始まったロシアとウクライナの紛争が現在も続いています。紛争と対ロシア制裁は、コーカサス地方や中央アジア地域の国々にさまざまな影響を与えています。当初、ロシアで働く出稼ぎ労働者の収入が失われる可能性や、日用品の物流が途絶えることによるインフレ圧力といった課題が紛争の波及的な影響として想定され、タジキスタン、キルギス、アルメニア等、これらの要素への依存度が大きい国々に大きな影を落としていましたが、後に、こうした想定は過度に悲観的であったことが判明しました。この地域の底堅さは、特にアルメニアやジョージアといった小規模経済国の台頭によって明確に示されました。これらの国々は、ロシア、ウクライナ、ベラルーシからの人口の一時的な移動による人口動態の変化を効果的に活用しました。人口流入が経済成長を促進し、ジョージアとアルメニアは2022年にそれぞれ10.1%、14%という2桁成長を記録しました。

ジョージア経済は驚異的な底堅さを示しましたが、この不安定な時代における躍進の背景には主に2つの要因が挙げられます。1点目としては、ほぼ新型コロナ危機前の水準まで回復した観光部門に支えられたほか、消費財やサービス支出も全体的に増加しました。2点目としては、ロシア企業やテクノロジー・セクターの専門家の流入に伴う送金量の増加によってGDPはさらに押し上げられました。この力強い経済ダイナミズムは、ジョージアの貿易赤字を相殺し、ジョージアの自国通貨ラリの上昇を支え、外貨準備の著しい増加につながりました。さらに、経済成長の加速は、同国の運輸、建設、製造部門にも波及し、激動する情勢に反して明るい展望が描かれました。なお、2022年の高騰の後、2023年の経済成長率は地域各国で7~8%となり、特にコーカサス地域では減速が顕著となりました。このような環境下でも、ジョージアは高い成長を維持し、紛争地域からの持続的な人口流入と資本移転による後押しが継続しています。

コーカサスと中央アジアの両方で現在起きている地政学的なイベントは、地域の経済状況に大きな影響を与えています。ジョージアでは、2024年5月に物議を醸す「外国の影響力透明化に関する法律」が採択され、同国のEU加盟への道筋と、それに伴って予想される外国直接投資の流れに懸念が生じています。一方、アルメニアとアゼルバイジャンは、この地域に安定をもたらすと期待される歴史的な平和条約の調印に向けて協議を進めています。この平和条約は協力を促進し、インフラ整備の促進や地域貿易の増加が見込まれるほか、紛争によりこれまで行われてこなかった海外からの投資を呼び込むことで、大きな経済的可能性を引き出すと期待されています。さらに、中国の一帯一路構想(BRI)はコーカサスと中央アジアで勢いを増しています。この新シルクロード・プロジェクトは、インフラへの大規模な投資を通じて経済成長を後押しし、地域全体の接続改善と貿易ルートを強化することが想定されています。この構想は、ロシア・ウクライナ紛争と制裁措置により、ロシアを経由する従来の物流ルートの利用が制限されたため、再び勢いを増しています。これらの地域内の国々は、貿易量の増加と物流網の改善から恩恵を受けることが期待され、グローバル市場とより密接につながっていくことで経済環境が一変する可能性があります。

2024年第1四半期のGDP成長率は、ジョージアが4.8%、カザフスタンが4.2%、ウズベキスタンが5.5%となりました。アルメニアはGDP成長率9.2%と好調な経済パフォーマンスを示し、アゼルバイジャンは4%の成長を維持しました。インフレ率は地域内でばらつきがあるものの、上記の国はいずれも3%台前半です。なお、ロシアからジョージアへの送金は2022年と比べて78%減少し、7,100万ドルとなっています。これは特にロシア人駐在員の離脱によるもので、公式統計では紛争の間にロシアからの移民が30%減少しています。

このような地政学的な変化は、課題となり得ると同時に、絶好の機会とも言えます。不安定な情勢の中、この地域の中小企業(MSME)セクターは各国とも底堅さを示しており、10~15%の成長率が見込まれています。さらに、この地域の制裁違反リスク(二次的制裁)は回避されており、制裁を受けた企業や個人は個別のケースにとどまっています。EUと米国の各当局は、2023年にジョージアを制裁遵守モニタリング訪問した際、各部門で強力な遵守体制が整備されていると結論づけました。MFIや銀行には対外ヘッジ金利の上昇が負担となっているものの、不良債権(NPL)の減少が続いており、外貨準備高も堅調であることから、この地域の国々は2024年後半に向けて安定したマクロ経済環境の土台を築いていると考えます。


Sources:
Global Findex Database: Micro Finance Market Size & Share Analysis - Industry Research Report - Growth Trends (mordorintelligence.com)
Asia: ASEAN economic outlook in 2024 | S&P Global (spglobal.com), Regional Economic Outlook for Asia and Pacific, October 2023 (imf.org), Microfinance loan portfolio stands at Rs 3.76 lakh cr at end of FY'24 Q2: Industry body - The Economic Times (indiatimes.com)
Latam: Economic Outlook | Latin America and the Caribbean April 2024 (worldbank.org), IDB | Nearshoring can add annual $78 bln in exports from Latin America and Caribbean (iadb.org)
Africa: Africa dominates list of the world’s 20 fastest-growing economies in 2024—African Development Bank says in macroeconomic report | African Development Bank Group (afdb.org), Unlocking The Potential Of Africa’s SME’s Using Emerging Technologies In Africa | AUDA-NEPAD (AFRICAN UNION DEVLOPMENT AGENCY)
Central Asia and Caucases: Home | S&P Global Market Intelligence (spglobal.com); After A Frosty Reception, Tbilisi's Wartime Russians Are Beginning To Leave (rferl.org); TRADING ECONOMICS | 20 million INDICATORS FROM 196 COUNTRIES


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