最低賃金引き上げへの対応、企業の7割が賃上げ 現時点の採用時の最も低い時給1,086円、最低賃金を84円上回る

プレスリリース発表元企業:TDB

配信日時: 2023-08-09 17:45:43

最低賃金引き上げにともなう企業の対応アンケート

厚生労働省の審議会は7月28日に2023年度の最低賃金の目安を、全国平均で時給1,002円にすると決め、初めて1,000円を超えた。物価高への対応などが重視され、最低賃金は現在の961円から41円(2022年度31円)上昇、上げ幅は過去最大で、伸び率も4.3%(同3.3%)と高い水準になった。今後は各都道府県の審議会がそれぞれの地域の実額を決めていき、適用は10月頃が見込まれる。

また、厚生労働省が発表した2023年6月の働く人1人あたりの現金給与総額は前年同月に比べて2.3%増え、18カ月連続でプラスになった。しかし、物価の変動分を反映した実質賃金は前年同月と比べて1.6%減少、15カ月連続でマイナスとなった。物価の上昇に賃金の引き上げが追いついていない状況のなか、今回の最低賃金の引き上げはどのような影響があるだろうか。
そこで帝国データバンクは、最低賃金引き上げへの対応策などについてアンケートを行った。



<アンケート結果(要旨)>
[画像1: https://prtimes.jp/i/43465/717/resize/d43465-717-66e2b520f7e1ecdd860c-0.jpg ]

今回の最低賃金の引き上げを受けて「対応する」企業は83.2%と8割超え

具体的な対応策として、「賃上げを行う」企業は7割(70.6%)

従業員を採用する時の最も低い時給(現時点)は約1,086円。2023年度の最低賃金の目安(1,002円)を84円上回る


調査対象:有効回答企業は 1,040 社(インターネット調査)
調査期間:アンケート期間は2023年8月4日~7日
調査機関:株式会社帝国データバンク



最低賃金の引き上げを受けて8割超が対応、具体策は「賃上げ」が7割
[画像2: https://prtimes.jp/i/43465/717/resize/d43465-717-2393a8a73d24bb776f46-0.jpg ]

今回(2023年度)の最低賃金の引き上げを受けて、自社の対応有無を尋ねたところ、何らか「対応する」企業は83.2%と8割を超え、「対応しない」(10.4%)を大きく上回った。

具体的な対応策としては、「もともと最低賃金よりも高いが、賃上げを行う」(46.5%)が最も高かった(複数回答、以下同)。次いで「最低賃金よりも低くなるため、賃上げを行う」(25.0%)が続き、最低賃金の引き上げを受けて「賃上げ」を行う企業[1]は、70.6%と7割に達した。
賃上げの理由として、「今まで就業している人はすでに今回の最低賃金を超えているが、新しく採用する人との差がなくなるので引き上げざるを得ず、負担が増える」(化学品製造)と在籍中の従業員の待遇改善や、「有能な人材へは最低賃金を大きく超える対応をしており、これからも同様の対応をする」(飲食店)といった人材確保を目的とする声があがった。

一方で、「最低賃金が上がっても130万円の壁があるので、パートさんの働く時間が減るだけ」(運輸・倉庫)と「年収の壁」問題のほか、「パート従業員の時給はほとんどが1,000円以下なので改定されれば上げざるを得ないが、物価高・コスト高で利幅が取りにくいなか、さらなる追い打ちをかけられるようなもの」(飲食料品・飼料製造)との物価高を背景とした厳しい実情も聞かれた。
以下、賃上げの有無にかかわらず、「従業員のスキル向上の強化」(24.0%)、「商品やサービスの値上げ」(21.3%)が2割台で並び、「人件費以外のコスト削減」(19.0%)が続いた。

[1] 「賃上げを行う(もともと最低賃金よりも高い)」「賃上げを行う(最低賃金よりも低くなるため)」のいずれかを選択した企業の割合


採用時の最も低い時給は平均1,086円、最低賃金を84円上回る
[画像3: https://prtimes.jp/i/43465/717/resize/d43465-717-1e0dd9bf91b6b7100706-0.jpg ]

現時点で従業員を採用する時の最も低い時給[1]について尋ねたところ、全体平均は約1,086円となった。現状の最低賃金(961円)からは125円高く、2023年度の目安である全国平均1,002円を84円上回った。人手不足を背景に、雇用維持を目的として賃金を高めに設定する動きがあるようだ。

業界別にみると、『不動産』『建設』『サービス』で全体を上回る一方、『小売』『運輸・倉庫』などでは下回った。企業からは「既にパートタイマーは1,400円程度の時給に引き上げているが、今後も物価の上昇を見ながら、随時引き上げたい」(不動産)といった声がある一方、「現状で頑張ってくれている人の賃金を上げたいがそこまで余裕がない。賃金を上げないと求人もできなくなる」(繊維・繊維製品・服飾品小売)といった声も聞かれた。

[1] 正社員、非正社員(パートタイマー、アルバイト、臨時など)を問わない


企業からのコメント
最低賃金を下回るパートさんの賃金引き上げはもちろんだが、最低賃金を上回っているパートさんとの差にも配慮しなければならない(飲食料品卸売)

今後のインフレ(消費者物価指数の上昇)次第では、賃金を上げないと採用ができなくなる危険性がある。半面、受注単価の上昇がともなうか不安である(メンテナンス・警備・検査)

扶養控除の基準が据え置きのままだと、働ける時間が減少することから、ますます人手不足の状態になる (繊維・繊維製品・服飾品小売)

現在は最低賃金の引き上げを見込んで、毎年4月に昇給を行っている。経営的に余裕があり引き上げ見込額を若干多めにしているが、資材やエネルギー価格の上昇により利幅が狭まっていることが、今後の悩みどころ(輸送用機械・器具製造)

運賃への転嫁が進まないなか、止まらない燃料費高騰に人件費アップ、来年には労働時間の削減まで課せられる。1年先の見通しが立たず業界に人が集まらない(運輸・倉庫)

最低賃金の引き上げは全体の所得の底上げになり良いことだと考えるが、対応できない多くの中小企業が廃業・淘汰されるのではないかと考える (機械製造)



まとめ

2023年度の最低賃金の目安は前年度より41円上昇し、全国平均で時給1,002円となることが決まった。上げ幅は過去最大となり、初めて1,000円を超える。今年6月の物価変動を反映した実質賃金が15カ月連続でマイナスとなり、物価の上昇に追いついていないなかで、本アンケートの結果によると、今回の最低賃金引き上げを受けて「対応する」企業は83.2%と8割を超えた。具体的な対応策としては、「賃上げ」を行う企業が70.6%と7割に達した。

2023年春季労使交渉では賃上げ率が平均3.58%と30年ぶりの高水準に達するなど、物価高等を背景に賃上げの機運は高まっている。しかし、一方で企業からは、最低賃金の上昇が新規採用に加えて既存従業員の賃金アップにつながり収益を圧迫するほか、「年収の壁」が招く働き控えによる人手不足の深刻化を懸念する声がある。
こうした課題を解決するには、原材料費や光熱費に加えて人件費を適切に商品・サービス価格へ転嫁できる環境の整備や、成長分野への労働移動などを通じた企業の生産性の向上、「年収の壁」是正に向けた制度の見直しが急がれる。

[画像4: https://prtimes.jp/i/43465/717/resize/d43465-717-c026701b3642cc03881b-0.jpg ]


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