モーガン・ル・フェイの能力は科学とどう重なる? 『ランナウェイズ』を神経科学と物理学から考察

2026年8月26日 23:20

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マーベルのドラマ『ランナウェイズ』シーズン3でエリザベス・ハーレイが演じたモーガン・ル・フェイは、アストラル・プロジェクション、スマートフォンを介した人々の支配、次元を越える魔術を駆使する。これらは現実の科学によって説明できる能力ではないが、身体と自己位置を組み立てる脳の働き、人の選択を誘導するインターフェース設計、高次元を仮定する物理理論といった研究分野に、作品設定を読み解くための興味深い補助線を見いだせる。

シーズン3は全10話で構成され、米国では2019年12月13日にHuluで一斉配信された。作品は魔術、異星由来の技術、仮想現実を同じ物語の中に置き、力の正体そのものよりも、それを誰がどのように操作するのかを中心に描いている。

■治癒者から魔女へ変化したモーガン・ル・フェイ

モーガン・ル・フェイの原型の一つとされる「モルゲン」は、ジェフリー・オブ・モンマスが12世紀半ばに著したラテン語詩『マーリンの生涯』に登場する。モルゲンはアヴァロンを治める9人の姉妹の筆頭で、薬草の知識や治療の技を備え、カムランの戦いで傷ついたアーサー王を迎え入れる人物として描かれた。

その後のアーサー王物語では人物像が多様に変化し、敵対者や策略家としての側面が強まっていった。こうした変遷については、男性中心の中世文学において、知識や権力を持つ女性を肯定的に描くことが難しくなった過程として論じる研究もある。一方、モーガンと特定のケルト系女神との関係や、その名前の起源については複数の説があり、一つの系譜に断定できない。

『ランナウェイズ』は、この長い文学的伝統から強大な魔術師としてのモーガンを取り出し、ダーク・ディメンションを支配する敵として登場させた。アーサー王時代の魔女というイメージと、スマートフォンや仮想現実が存在する現代のロサンゼルスを接続したことで、古い魔術と新しい技術が異なる手段で人間の認識や行動を操作するという主題が浮かび上がる。

■アストラル・プロジェクションと身体感覚の神経科学

モーガンの代表的な能力の一つが、意識を肉体から切り離して別の場所へ送り出すアストラル・プロジェクションである。この描写に重ねられる現実の研究テーマが、体外離脱体験と、自己が身体のどこに位置していると感じるかを決める脳の情報処理だ。

側頭葉と頭頂葉の境界付近にある側頭頭頂接合部は、視覚、触覚、平衡感覚、手足や胴体の位置に関する感覚などを統合し、身体と自己位置に関わる認識に寄与している。これらの情報が通常とは異なる形で統合されると、自分の身体を外から見ているように感じたり、身体とは別の場所に自己があるように感じたりすることがある。

オラフ・ブランケらが2002年に発表した症例報告では、てんかんの術前評価を受けていた患者の右角回を局所的に電気刺激したところ、浮遊感や、自身の身体を上方から見ているような体験が繰り返し誘発された。研究チームは、体性感覚と前庭感覚の統合が乱れたことが、こうした自己身体に関する錯覚につながった可能性を示した。

もっとも、この結果は一人の患者に対する臨床上の電気刺激から得られたものであり、体外離脱体験のすべてを一つの脳領域だけで説明するものではない。その後の研究では、側頭頭頂接合部を含む複数領域と多感覚統合の関与が検討され、視覚と身体感覚の食い違いを利用して、体外離脱に似た自己位置の変化を起こす実験も行われている。

この研究がモーガンの能力と共有するのは、「自己が身体の内側にいる」という感覚を固定されたものではなく、複数の感覚から脳が組み立てる表象として扱う点である。劇中のアストラル・プロジェクションには、自己位置の表象を自在に切り替えられる人物というイメージを重ねられる。

意識がなぜ主観的な体験を伴うのかという問題は、これとは別に残る。統合情報理論を含む複数の意識理論が提案されているものの、意識をどのように定義し、物理的な系からどのように生じると考えるかについて合意は形成されていない。『ランナウェイズ』はこの未解決問題に答えるのではなく、身体、自己位置、意識を分けて考えるための物語的なイメージを提供している。

■コルヴスとダークパターンに共通する行動誘導

シーズン3では、モーガンがウィザード・コンピュータズを利用し、「コルヴス」と呼ばれるスマートフォンを広める。端末に魅了された利用者は画面から離れにくくなり、端末が壊されたり取り上げられたりすると激しく反応する。モーガンは端末によって形成された利用者のネットワークを、自身の力を拡大するために使う。

コルヴスが物語の中心的な脅威として本格的に描かれるのは、第6話「Merry Meet Again」以降である。スマートフォンを無償で配り、利用者同士を「群れ」として結び付ける仕組みは、便利なコミュニケーション機器と、人を支配する魔法の道具という二つの顔を持つ。

この構造を連想させる現実の設計概念が、ダークパターンである。ダークパターンとは、画面の見せ方や選択肢の配置などによって、利用者の自律的な判断を妨げたり、提供者に有利な行動へ誘導したりするインターフェース設計を指す。拒否の選択肢を目立たなくする、解約手続きを複雑にする、残り時間や在庫に関する圧力を強調するといった手法も含まれる。

無限スクロール、自動再生、通知などは、それ自体が常にダークパターンに該当するわけではない。しかし、自然な終了地点を減らし、利用を続けさせる意図で設計された場合には、過度なエンゲージメントを促す仕組みとして議論の対象になる。

研究では、ダークパターンが年齢、所得、教育水準などにかかわらず幅広い利用者の行動に影響し得ることが示されている。また、問題のあるスマートフォン利用については、低い自己統制や、情報や交流から取り残されることへの不安であるFOMOとの関連が報告されている。ただし、スマートフォン利用を単一の「ドーパミンループ」で説明したり、特定の画面設計が直接依存を引き起こすと断定したりするのは単純化が過ぎる。利用目的、心理状態、生活環境、社会的な要因を含む複数の条件が関係するためだ。

コルヴスとの共通点は、人の注意をつかみ、反復的な利用を促し、その集合を別の目的に利用する情報処理構造にある。劇中でモーガンが集める力は、現実のプラットフォームにおける利用時間、注意、行動データを連想させる。魔法の音声が人を直接支配するという設定よりも、便利さと社会的つながりを入口として利用者を離れにくくする点に、作品の技術批評が表れている。

■ダーク・ディメンションと高次元宇宙のイメージ

モーガンはダーク・ディメンションから現実世界へ進出し、二つの領域を接続しようとする。作品におけるダーク・ディメンションは、独自の環境と法則を持ち、特定の手段で出入りできる別領域として描かれている。

この設定を考える補助線になるのが、ブレーンワールドと呼ばれる理論的枠組みだ。リサ・ランドールとラマン・サンドラムが1999年に発表した模型では、観測される4次元時空が、より高次元の時空に埋め込まれたブレーンとして表現される。特にランドール・サンドラム模型は、湾曲した一つの余剰次元を用いて、重力と電弱相互作用の間にある大きなエネルギースケールの差を説明しようとする。

ブレーンワールドは、別世界へ移動するための理論ではない。それでも、観測できる時空がより大きな高次元構造の一部であるという発想は、ダーク・ディメンションを「遠くにある惑星」ではなく、通常とは異なる方向に隔てられた領域としてイメージする手掛かりになる。

超弦理論は一般に10次元時空、M理論は11次元時空を扱う。日常的に観測される4次元時空以外の次元をどのように扱うかは理論や模型によって異なり、すべてがプランク長まで小さくコンパクト化されるとは限らない。ランドール・サンドラム模型の余剰次元も、単純にプランクスケールへ丸め込まれた次元として導入されているわけではない。

劇中の次元融合には、別の物理学上のテーマである真空崩壊のイメージも重ねられる。量子場理論では、宇宙が準安定な真空状態にある場合、より安定した状態への遷移が泡の生成によって始まり、領域を拡大する可能性が理論的に研究されている。これは二つのブレーンを合体させる現象ではなく、物理的な真空状態の転移を扱うものだが、領域の拡大によって周囲の状態が不可逆的に変化するという点が、物語上の次元融合を考えるイメージになる。

『ランナウェイズ』と現代理論物理学を結ぶのは、個々の魔術が既存理論に正確に対応することではない。目に見える世界を、それより大きな構造の一部として捉え、通常は隔てられた領域同士を接続するという発想が共通している。

■ヒーリング・アルゴリズムが映す現実と人格

シーズン3序盤では、チェイス、カロリーナ、ジャネットが「ヒーリング・アルゴリズム」と呼ばれる仮想環境に閉じ込められる。そこでは各人が望む生活を思わせるシミュレーションを体験し、ジャネットはほかの二人を脱出させるために環境内へ残る決断をする。

この筋書きは、死後も意識がコンピュータ上に保存されたことを示すものではない。生きた人物の意識が高度な仮想環境に取り込まれ、その中で経験を続けるという設定であり、意識を複製する全脳エミュレーションとは区別する必要がある。

それでもヒーリング・アルゴリズムは、感覚入力が十分に整えられたとき、利用者にとってシミュレーションが経験上の現実になり得るという主題を提示する。現実と仮想環境の境界が、映像の精細さだけでなく、記憶、欲求、家族関係といった個人の内面によって形作られる点が重要である。

意識が生物学的な素材に依存するのか、それとも情報処理の構成が再現されれば別の基盤でも成立するのかという「基盤独立性」は、哲学や認知科学で論じられてきた仮説である。しかし、全脳エミュレーションによって意識を再現できることは確認されておらず、統合情報理論も、一般的なコンピューター・シミュレーションなら意識を持つと保証する理論ではない。

作品が描いているのは、こうした仮説の答えではなく、経験が人工的に構成された場合に本人の選択や人間関係をどう扱うべきかという問題だ。ジャネットが仮想環境に残る展開は、意識の素材よりも、その場所で経験し、判断し、他者のために行動する主体をどのように捉えるかという問いへつながっている。

■魔術と技術を結ぶのは情報の操作

アーサー・C・クラークの第三法則は、「十分に発達した科学技術は、魔法と見分けがつかない」とする。『ランナウェイズ』シーズン3では、これを単純に反転させて魔法を科学へ還元するのではなく、魔術と技術の双方を、人間の知覚、注意、記憶、行動を変える手段として並べている。

アストラル・プロジェクションは自己位置の変化を、コルヴスは注意と行動の誘導を、ダーク・ディメンションは世界を構成する境界の操作を、ヒーリング・アルゴリズムは経験そのものの構築を物語化している。神経科学、行動科学、理論物理学、意識研究に同じ答えが存在するわけではないが、いずれも人間が現実をどのように認識し、その認識がどのように変化し得るかを考える材料になる。

モーガン・ル・フェイの脅威は、科学的な仕組みを正確に使いこなすことではなく、知覚や情報の流れを一方的に支配することにある。古い伝説の魔女を現代のテクノロジー企業と結び付けたことで、作品は「魔法か科学か」という区別よりも、強力な知識やシステムを誰が制御し、誰の意思を変えるために使うのかを問いかけている。

■注目ポイントQ&A

●体外離脱体験は神経科学でどのように研究されていますか?

視覚、平衡感覚、触覚、身体位置の感覚を統合する仕組みとの関係が研究されています。2002年には右角回への電気刺激によって、一人の患者に浮遊感や自分の身体を上方から見るような体験が繰り返し誘発されました。その後も、側頭頭頂接合部を含む脳領域と多感覚統合の関係が検討されています。

●ダークパターンとはどのような設計ですか?

利用者の自律的な判断を妨げたり、本人が望んでいない選択へ誘導したりするインターフェース設計です。解約を必要以上に難しくする、拒否の選択肢を見つけにくくする、心理的な圧力を与える表示を使うといった例があります。無限スクロールや通知は、利用の継続を不当に促す文脈で用いられた場合に問題となります。

●ダークパターンはスマートフォン依存を直接引き起こしますか?

特定の設計だけが問題のあるスマートフォン利用を直接引き起こすとまでは確認されていません。利用を続けさせる設計、自己統制、FOMO、心理状態、生活環境など、複数の要因が関係すると考えられています。

●ブレーンワールド理論はダーク・ディメンションを説明できますか?

ダーク・ディメンションを直接説明する理論ではありません。ブレーンワールドは、観測される時空を高次元時空に埋め込まれた構造として表す理論的枠組みです。通常の感覚では見えない方向に別領域が存在するという設定をイメージする補助線になります。

●ヒーリング・アルゴリズムは意識のコンピューター移植を描いていますか?

厳密には異なります。劇中では、生きた人物が高度な仮想環境に閉じ込められ、その中で経験を続けています。脳を複製して別のコンピューター上に意識を作る全脳エミュレーションや、死後の意識保存が成立したことを示す設定ではありません。

元記事: Runaways Got Morgan le Fay’s Neuroscience Right; Dark Patterns and Brane Physics Too

※この記事はTech Timesから提供を受けた記事を日本向けに翻訳・編集したものです。

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