「眠っている犬をそのままにする」とは? 犬にまつわる英語イディオム (10)

2025年2月18日 09:17

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 「言わぬが花」という日本語のことわざがあるが、英語にも似た発想の表現がある。それが今回紹介する「Let sleeping dogs lie」だ。直訳すれば「眠っている犬をそのままにしておけ」となるが、その意味や由来はどこにあるのだろうか?

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■Let Sleeping Dogs Lie

 「Let sleeping dogs lie」は、「眠っている犬をそのままにしておけ」という直訳からもおおよその意味は想像できるだろう。「済んだことは蒸し返さない方がよい」、「余計なことをして問題を再燃させるな」といった意味のことわざだ。

 眠っている犬を不用意に起こすと、驚いて吠えたり、攻撃的になったりすることがあるため、刺激しない方がよいという経験則が背景にある。

 これは、14世紀にまでさかのぼることのできる非常に長い歴史を持つことわざだ。

 記録に残る最古の使用例としては、中世イギリスの大詩人、ジェフリー・チョーサーの代表作『トロイルスとクリセイデ(Troilus and Criseyde)』(1385年頃)中の「It is nought good a slepyng hound to wake」という一節が挙げられる。

 この長編詩はギリシャ神話をもとにしたもので、舞台はトロイ戦争の最中、トロイの王子である主人公のトロイルス(Troilus)が、クリセイデ(Criseyde)という女性に恋をするという物語だ。クリセイデの叔父、パンダラス(Pandarus)は、二人の仲を取り持とうとする世話好きな人物で、時には策略を用いて二人を引き合わせようとする。

 問題のセリフが登場するのは、パンダラスが夜遅くにクリセイデの部屋を訪れる場面である。

 彼女の侍女たちが部屋の外で寝ているのを見て、パンダラスは「彼女たちを起こさない方がよい」という忠告の意味でこのセリフを発するのだ。ここでは単に「眠っている人を起こさない方が無難だ」という字義通りの意味で使われているが、すでに「余計なことをして騒ぎを起こすな」という暗示も含まれている。

 その後、形を変えつつこの表現はことわざと定着していき、19世紀には現在と同じ形の 「Let sleeping dogs lie」で使われるようになった。

 以来現在に至るまで、このことわざは日常会話やビジネスシーン、政治的な議論など幅広い場面で使われている。たとえば、過去の対立や誤解を持ち出すことで新たなトラブルを生む可能性がある状況など、このことわざを用いるのに適した例だ。

 例文
 ・I know you are still upset about what he said last year, but let sleeping dogs lie. There's no point in starting another argument.
 (彼が去年言ったことにまだ腹を立てているのはわかるが、もう蒸し返さない方がいいよ。新たな口論を始めても意味がない)

 ・We could investigate the old accounting errors, but honestly, it's best to let sleeping dogs lie. Bringing them up now might cause more harm than good.
 (昔の会計ミスを調査することもできるが、正直なところ、そっとしておいた方がいい。今さら蒸し返しても、かえって問題が大きくなるかもしれない)(記事:ムロタニハヤト・記事一覧を見る

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