政府から出された資産運用会社への改善指示 その内容は?

2023年4月28日 17:00

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 岸田政権が掲げる「貯蓄から投資へ」、「所得倍増計画」施策の下で、NISAの拡充や金融教育の普及が進められている。施策のもう1つの柱として「顧客本位の業務運営」があるが、その一環として運用会社への抜本的改革が岸田首相より指示された。

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 4月26日に開催された第5回経済財政諮問会議において、運用会社のガバナンスや運用能力に関して改善を図るよう、金融庁に具体的な改革案の提示が求められた。ここまで明確な指示がされることは、政府の意気込みがうかがえる。

 会議に先立ち、金融庁も4月21日に「資産運用業高度化プログレスレポート2023」を公表し、運用業界における課題と、金融庁としての考えを示している。

 財政諮問会議でもプログレスレポートでも挙げられている具体的な課題は、主に以下のようなものである。

・運用会社が属するグループ会社の意向を反映した商品作りで、顧客本位となっていない。

・海外資産に関する運用力がない。

・経営層はグループ間人事のため運用業界の知見が浅く、在任期間も短い。

・ファンドの組入銘柄や運用担当者、手数料等の情報について透明性が低い。

 1点目のグループ会社の意向を反映した商品作りとは、この業界で影響力の強い販売会社、つまり証券会社の意向が反映されていることを示す。運用会社の資産規模上位は、三菱、野村、みずほ、大和等のグループに属している。

 証券会社の個人投資家向けビジネスは、手数料で稼ぐモデルである。そのため、売りやすい商品に乗り換えさせる回転売買が未だに横行している。グループの販売会社は運用会社にAIやDXといった話題の商品を多数作らせることを行っており、より顧客の長期資本形成に役立つ商品作りを促すものである。

 事実、日本のファンドは欧米に比べて小粒なものが多く、費用対効果が良くない。投資信託残高1位のアメリカの市場規模と比べて、日本はその10分の1しかないが、本数はあまり変わらない状態である(出典:投信協会統計情報)。

 2点目の海外資産に関する運用力がないとは、外国株や外国債を選別し運用する能力が日本の運用会社にないため、海外の運用会社のファンドを日本のファンドにくるんで販売していることに対する指摘である。このことに関する問題は、海外の運用会社に日本の投資家の支払う手数料が流れて行ってしまうことである。

 3点目の経営層における知見や在任経験の問題は、グローバルな視野を持ち、政府の施策を推進する上での阻害要因になる可能性がある。

 4点目の情報開示における透明性の低さについても、手数料情報が不明確で妥当性も分からないことで商品比較が難しくなっていることは、投資へのハードルの1つとなる。また未だにPDF で開示される情報も多く、2次利用ができないことも、海外に比べて遅れている点である。

 更に、運用会社で使うシステムの問題も根深く、解決が求められる。運用会社の基幹システムは「投信計理システム」だが、1社でそのシェアの7割を占めている(出典:金融庁)。更に、そのシステムとつながるネットワークである「公販ネット」、及びその先にある証券会社や銀行における窓口販売システムも同一の企業のシェアが高い。

 金融庁のプログレスレポートでは「A社」という表記だが、実態は野村グループの野村総合研究所(NRI)のシステムである。NRIのシステムを導入している運用会社は、このシステムが対応していない運用や機能には踏み込みにくい状況であり、システム寡占の打開が極めて重要であると考えられる。

 ここに風穴を開ける可能性があるのが、「シングルNAV」という仕組みである。現状、ファンドの基準価額は運用会社と受託会社のそれぞれで二重に計算されており、その機能が先の投信計理システムに実装されている。

 この二重計算は長らく日本独自の慣習として行われてきたが、シングルNAVは計算を1社に寄せるもので、業界のシステムやオペレーションに変革をもたらすことが期待されている。(記事:Paji・記事一覧を見る

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