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コラム【新潮流2.0】:手足を動かせ(マネックス証券チーフ・ストラテジスト広木隆)
*09:33JST コラム【新潮流2.0】:手足を動かせ(マネックス証券チーフ・ストラテジスト広木隆)
◆4月になった。新年度である。進級、入学、就職などで新しいスタートを切る若者に、僕からひとつアドバイスを贈ろう。とにかく「手足を動かす」ことを大切にしてほしい。キーボードを叩くのでもいいが、いちばん良いのは手書きすることだ。「お手を煩わせて」というが、煩わしいと思ってはいけない。「手間暇」かけることに意味がある。「ご足労」というが労を厭わず足を運ぼう。現場に、相手先に自ら赴くことが大切だ。
◆駆け出しのファンドマネージャーの時、指導教官役の大ベテランから、世界各国の株価指数や為替、金利、商品市況などありとあらゆる膨大な種類のチャートを毎日つけるというルーティン・ワークを課せられた。方眼用紙に手書きでチャートを描くのである。若造だった僕は、そんなことに何の意味があるのかと内心、不平を言っていた。ブルームバーグやQUICKの端末を叩けば瞬時にチャートが表示されるのに、と。当時はわからなかったが、今では理解できる。手を動かす作業の重要性について、である。
◆ChatGPTが話題である。あまりの凄さを目の当たりにして、このままAIが進化すれば、人間は機械との競争に負けて滅ぼされてしまうのではないか‐そんなことまで危惧される事態だ。当社ファウンダーの松本大は先週の「つぶやき」で「そうならないためにも、五感のうち視覚、聴覚以外の三感(?)、即ち触覚、味覚、嗅覚を大切にして、コミュニケーションをしていきたい」と書いていた。
◆実は、この五感というものは、人間の脳へインプットする経路である。目で見る、耳で聞く、手で触る、鼻で嗅ぐ、舌で味わうことが脳への入力にあたる。それに対してアウトプット(出力)は筋肉の運動だけだと養老孟司先生は述べている。確かに、書く(描く)のも、話す(発語する)のも筋肉の運動である。手足が動かない人が瞼の瞬きで意思表示することがあるが、それも眼瞼挙筋という筋肉を使っている。五感で脳へ入力し、筋肉を使って出力する。これが人間の脳の使い方だ。AIには、機械にはできないことである。
◆産業革命以来、機械が人間の仕事を奪う脅威が語られてきたが、実際には人間は機械をうまく使ってテクノロジーの恩恵を受けてきた。これからも機械は人間を助け社会をより効率的にしてくれるだろう。そこで重要になるのが機械との共存、協働である。機械にできることは機械に任せ、人間は機械にできないことをしよう。
◆話をはじめに戻すと、手足を使うというのは機械にできない、人間の脳からの出力である。出力をどんどん上げていくことの是非は言うまでもないだろう。たくさん手足を動かし、モノを書きまくって、あちこち訪ねて回るのだ。そこで得た見分を五感をフルに使ってまた脳にインプットする。こうして脳のインプット・アウトプットのループを活発に回すことが肝要だ。「手足を動かせ」というアドバイスを新しいスタートを切る若者に贈ると述べたけど、このメッセージの重要性は若者に限らず、すべてのひとに言えることだ。むしろ筋力が衰え始めた中高年にこそ贈りたい言葉である。ご同輩、ぜひ実践しようではないか。
マネックス証券 チーフ・ストラテジスト 広木 隆
(出所:4/3配信のマネックス証券「メールマガジン新潮流」より抜粋)《CS》
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