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網膜変性疾患による視力低下を回復へ 安価な治療法に繋がる研究 九大
成人の失明原因の1つである網膜変性疾患の治療法は、まだ確立されておらず現在も研究が行われている。九州大学は、モデル動物を用いて、眼内に低分子化合物を注射することで視力を維持することに成功したと発表した。今後、新たな治療薬の開発に期待できるだろう。
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今回の研究は、九州大学大学院医学研究院眼科学分野の園田康平教授、村上祐介講師、有馬充助教、藤井裕也大学院生らにより行われ、その成果は、2月23日の「PLOS ONE」オンライン版に掲載された。
網膜は眼球の奥にある膜状の部位で、光を感じる細胞と色を感じる細胞が集まっている。カメラにおけるフィルムにあたるもので、眼に入ってきた像を写し、脳に伝えることで私たちは「ものを見る」ことができている。
この網膜が傷ついたり異常が起こることは、失明原因の1つになっている。網膜色素変性や加齢黄斑変などの網膜変性疾患を原因とする成人の失明は、緑内障、糖尿病網膜症に次いで多くなっている。
網膜色素変性は難病に指定されており、初期には網膜の光を感知する細胞に変性が起こり、徐々に色を感知する部分にも変性が広がっていく。長い場合には数十年の時間をかけて進行し視力障害が起こる病気だ。加齢黄斑変は加齢により網膜の黄斑という部位の変性が生じることで起こる。黄斑は色を網膜の中で感知する細胞が集中している部位だ。
これらの疾患の治療法は、まだ確立されていない。現状では、症状を和らげるために遮光眼鏡の使用などがある。進行を抑えることを目的としてビタミン、循環改善薬による治療が行われることがあるが、効果ははっきりしていない。
最新の治療法として研究されている最中なのが、細胞移植や遺伝子治療などである。これらは高価だったり手技の難しさがあり、どこでも治療を受けられるというものではない。
研究グループは、ラットの網膜細胞のうち視細胞ではないミューラー細胞を培養し、低分子化合物を様々な組み合わせで加えて検討した。すると、4種類の低分子化合物を同時に加えた時にミューラー細胞が視細胞に分化することが判明したという。この結果から、変性した視細胞を補充することができる可能性があると考えられた。
次に網膜変性疾患を持つモデル動物の眼の硝子体に、上記の4種類の低分子化合物を注射。すると注射をした後のモデル動物の眼で、ロドプシンという色素が作られるようになった。ロドプシンは視細胞のみが作ることができる色素である。
このロドプシンを産生する細胞は、網膜のミューラー細胞が、低分子化合物の投与により視細胞に分化したものであることが明らかになったという。
そして、ロドプシンを作れるようになったモデル動物において、視覚に変化が見られるのかどうかを検討。結果、低分子化合物による処置を行った動物モデルの行動範囲が広がったことにより、視機能が回復していると考えられたという。
研究グループが発見した4種類の低分子化合物の注射による治療は、化合物の調達や、処置の手技、治療にかかる費用などの観点で、多くの患者が受けることができる可能性がある。早期にこの治療法を用いることにより、網膜の変性の進行を遅らせることができ、進行の状態などにより繰り返し治療を受けることもできるだろう。(記事:室園美映子・記事一覧を見る)
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