5年先まで使える広告代理店的プレゼンテーション術 (75)

2023年3月3日 15:46

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 先日の地下鉄車内でのこと。近くにいた乗客2人組の会話が耳に入ってきました。そのうちの1人がどの情報を拾えばいいのかわからないぐらいのマシンガントークを披露していました。もっともらしい正義をダ―――ッと語っており、なんだかYahooコメントだなぁ~と思いながら聴いていました。

【前回は】5年先まで使える広告代理店的プレゼンテーション術 (74)

■(75)ヤフコメは、「ただ、」の直後にくる1文が「本音」だ

 Yahooコメントの筆致には、ある一定の「癖」が見られます。コメ主たちが「ニュースの対象人物(の言動や犯行)」や「他のコメ主の意見」に物申す場合、必ずしもコメント冒頭から批判を書き連ねるわけではありません(もちろん、冒頭から過激に口撃する人もいますが)。

 まずは、やむなく事件や問題を起こしてしまった人物に対し、小さな事件の場合は「同情」する文面から入ります。「あなたがそうしたかった理由、よ~くわかりますよ!」的に、一旦心を重ねます。しかし、一定の理解を示した直後に「ただ…、あなたは●●●すべきでした」と突然、相手を糾弾し始めるのです。

 多くのコメ主の文章には、このような「同情・理解 -> -> 糾弾・突き放し」が散見されます。これ、じつは「小論文の書き方」と同じ。課題文または与えられたテーマに対し、問題点の把握から課題を設定し、自身が用意した具体例(他メディアの記事、自己体験エピソードなどの材料)を使って軽度の分析・理解を示しつつも、直後に「しかし、」と疑問を呈し、深い分析-> 考察-> 結論へと論展開していくのです(小論文の場合、この組み立てさえ出来れば平凡な論展開でも60点はとれます)。

 この「しかし、」の後にくる数行がコメ主の「真意・訴え」なので、本来はこの部分だけを書けばよいはずです。しかし、ダイレクトに相手に訴えをぶつけてしまうと摩擦や口論が生じるため、文頭で「相手に理解を示すふり」をするわけです。

 YahooコメントやSNSで意見をぶつけ合うことは悪いことではありません。ただ、読者が抱える不平不満や意見を苛烈な表現に替えて、自分と考えの異なるコメ主にそれをぶつけて溜飲を下げる行為は、不快且つ迷惑なので止めて欲しいなぁと思います。

 と、当コラムの構成に沿って結論を書いてみました。どうでしょうか。太字の「ただ、」の後の1行が本音です。「ただ、の直前の1行」は相手を一旦認める風味を出しつつも、「ただ、の直後の1行(本音)」を活かすための「捨て石表現」にしています。

 「ただ、の直前の1行」はビジネス枕詞(クッション・ワード)と言って、何の情報価値も発見も見られません。ただし、「言いづらい本音」を言いやすくし、且つトラブル回避の一助となっていることは否定できません。

 ビジネス枕詞はたった1行であっても、訴えるポイントの定着を弱め、伝達スピードを落とすので、私は書かないようにしています。

著者プロフィール

小林 孝悦

小林 孝悦 コピーライター/クリエイティブディレクター

東京生まれ。東京コピーライターズクラブ会員。2017年、博報堂を退社し、(株)コピーのコバヤシを設立。東京コピーライターズクラブ新人賞、広告電通賞、日経広告賞、コードアワード、日本新聞協会賞、カンヌライオンズ、D&AD、ロンドン国際広告祭、New York Festivals、The One Show、アドフェストなど多数受賞。日本大学藝術学部映画学科卒業。好きな映画は、ガス・ヴァン・サント監督の「Elephant」。
http://www.copykoba.tokyo/

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