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放流で魚は増えず、長期的には悪影響も 長期データから分析 北大ら
放流数が⿂類群集の種数と平均密度に及ぼす影響(画像: 北海道大学の発表資料より)[写真拡大]
現在日本では、水産資源の維持のために約70種類の水産動物の種苗放流が行われている。北海道大学らの研究グループは、放流が長期的に水産資源の維持に貢献できているのかどうかを、シミュレーションによる理論的な分析と過去21年間のデータの分析を行い検討してきた。その結果多くの場合、生息している水産動物の種類を減らしてしまうことが明らかになったという。
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この研究は北海道大学の先崎理之助教が、ノースカロライナ大学グリーンズボロ校の照井慧助教、北海道立総合研究機構の卜部浩一研究主幹、国立極地研究所(当時)の西沢文吾氏と共同で行った。研究の成果は、7日の「Proceedings of the National Academy of Sciences」誌に掲載されている。
サケマスの卵を人工的に孵化させた稚魚を放流する育種放流は、1420年にはフランスで行われており、日本にも明治初期に導入された。種苗放流の目的は漁獲を維持ことであり経済的な利点がある。しかし野生の中に人工孵化の魚たちが混ざることによる悪影響や、生態系のバランスへの影響など、長期的な影響は明らかになっていなかった。
今回研究グループは、まず北海道全域の保護水面河川において、1999年から2019年までの21年間の魚類群集データを用いて、放流が河川に与える長期的な影響を分析した。保護水面とは、水生動物や植物の生活や繁殖に適しており、保護が必要であると都道府県知事または農林水産大臣が指定する区域のことである。
これらの河川では、年間0~24万匹のサクラマスが放流されている。その放流数に応じて、サクラマス、他の魚類の密度がどのように変化するのかを分析。すると、サクラマスの放流を大規模に行っている河川の方が、魚全体の密度、魚の種類共にこの21年間で減少していていた。そしてこのような影響は、同種内、多種間での競争の激化によるものと考えられたという。
また、シミュレーションによる理論分析では、放流対象の種1種類とそれ以外の9種類の魚群について、生物の増加・適応・競争についての特徴や環境の32パターンのシナリオについて分析を行った。その結果、放流することによって種間競争が激しくなり、放流種以外の種類は排除されるという結果になったという。
また過度の放流を行うと、放流種の種内競争が激しくなり自然繁殖が抑制され、長期的には放流種自身の減少をもたらすことがわかった。放流によって放流種の増加が期待できるのは、種内競争が少なく、環境の容量が大きい時のみだったという。
これらの分析により、放流が長期的には環境内の魚群の種類を減少し、放流種自体をも減少させてしまう可能性があることが明らかになった。
これまでの長い歴史で、放流はあくまでも水産資源の維持を目的として行われてきた。しかし、放流が長期的視点では、水産資源を減少させてしまうかもしれないという指摘は重く受け止めていく必要があるだろう。
水産資源の維持のためには、放流以外にもさまざまな方法が考えられる。魚たちの産卵場所や稚魚が生息できる場所を整備するなどもその1つだろう。また、個体数が減っている時には禁漁にし、自然繁殖のによる生物の増加を待つことも大切だろう。1度失ってしまった自然は戻って来ない。(記事:室園美映子・記事一覧を見る)
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