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「三菱スペースジェットの開発断念」を聞いて、連想した3つの疑問!
7日、三菱重工業は国産ジェット事業の開発中止を発表した。何故か、デジャブ(既視感)のようなニュースと受け止めて、本来感じるであろう強い失望感はなかった。
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1962年に就航した”YS 11以来の国産旅客機を開発する”と伝えられてから、既に15年が経過。待ち疲れのような感覚もあるし、時折”難航”振りを伝える情報を耳にしていたから、”開発断念”は有り得ることと危惧していたせいだろう。
三菱スペースジェット(旧MRJ、三菱リージョナルジェット)の開発を巡る話題でいくつか疑問に感じていたことがある。
1つ目は2017年1月に5度目の初号機納入延期を発表した際に、当時の宮永俊一社長が「我々に旅客機製造に関する知見が足りなかった」と述べたことだ。計画が発表された時には、国中(と感じるくらい)が沸き立った国産ジェット旅客機の開発で、国から500億円の支援を受けた企業の代表者から、「旅客機製造の知見が足りなかった」という言葉を聞くとは考えもしないことだった。
2つ目は、米国の大手航空会社とパイロット組合が結ぶ「スコープ・クルーズ」という労使協定を軽視していたか、根拠なく楽観視していたことだ。
スコープ・クローズは、地域の小さな需要(リージョナル)路線で、運行する機体の座席数や重量等に設定された上限のことだ。代表的な例では座席数最大76席と最大離陸重量39トンが上限だが、MRJはその上限を超えていたから、完成しても販売先は限られていた。
ジェット旅客機事業は、開発費用を1800億円程度に収めた上で、1000機規模の受注があって初めて採算の目処が立つと、巷間言われていたくらい難易度の高い事業だった。そして最大のマーケットが米国であることは誰もが認識していたから、マーケットに参入する上で障害となる懸念事項は詳細に分析して、解決が可能と見通せる時点で初めてゴーサインが出されるべきものだ。
ところが、スコープ・クルーズは遠からず制限が撤廃されるから問題ないという見通しを基に軽視していた。
スコープ・クルーズの撤廃が見通せなくなって、切羽詰まった三菱航空機は、2019年5月に「米国需要を狙って70席型を投入する」と発表し、90席モデルとの2本立てにして辻褄を合わせた。70席モデルで米国需要を狙うと言うなら、90席モデルのマーケットは”どこか?”と疑問視される迷走が始まっていた。
3つ目は納入先の航空会社との関係だ。高価なジェット旅客機を何十機も導入する航空会社は、機体の更新時期を見極めて資金計画を組む。5回も6回も納入が繰延された挙句に”開発断念”では、代替機種の調達すら懸念される事態だろう。
新型コロナによる”航空需要の蒸発”と重なっていたのが幸か不幸か、国産ジェット航空機に支援の思いを込めて発注した、ANAやJALの思いは届かなかった。(記事:矢牧滋夫・記事一覧を見る)
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