5年先まで使える広告代理店的プレゼンテーション術 (70)

2022年6月6日 17:10

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確率加重関数を表したグラフ

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 ある晩、あなたは恵比寿の中華レストランで食事を済ませ、レジで支払いをしていました。人の気配を感じ、ふと横を見ると、なんと、週刊プレイボーイの巻頭でよく見かける「あなたの激押しグラビアアイドル」が眼前に立っていたのです。そのコは、あなたを指差して、こう言い放ちます。

【前回は】5年先まで使える広告代理店的プレゼンテーション術 (69)

 「あーーっ! 私、この人、タイプぅーーー!!」

 そして、あなたは、そのコにジィーッと見つめられるのでした。

 年末ジャンボ宝くじで1等(7億円)が当たる確率は「2,000万人に1人」と言われています。冒頭の出来事は、このくらい起こる確率が低いのではないでしょうか。

 さて、「人は確率を正確にとらえることが苦手だ」と行動経済学では論じられています。頭では理解しているつもりでも、確率を合理的(客観的)に評価するのが不得意なのです。人間の「確率に対する感じ方、その評価」を表したものを「確率加重関数」と言います。(※グラフ参照)

 たとえば、過去に宝くじの当選経験がなくても、「行列ができる売店」に並んでしまう人がいます。私は並ぶほどではありませんが、過去に数回、1万円分の宝くじを購入しました。本来、当選確率を合理的に評価すれば、宝くじには並ばないし、買わないはず。しかし、人は低い確率になればなるほど期待を抱き、希望を感じて購入してしまいます。このように、低い確率を過大評価する傾向が人間にはあるのです。

■(70)「絶対ヒットする企画」とは、感覚知と論理知で組み上げた「リザルトが約束できる企画」

 低い確率を過大評価する。それはプレゼンの時も似たことが起こります。戦略的には正しくても「クライアント事情で選ばれにくい企画」を提案する時です。選ばれる確率が低いがゆえに提案側としては、それに賭けたくなるのです。「クライアントに選ばれにくい企画=絶対ヒットする企画」という「慢心」と「確信」がクリエイターの底流には存在しているからです。

 その場合、大体が尖鋭的で挑戦的なクリエイティブです。確かにクライアントには通しづらくなるものの、感覚知と論理知(または数値で科学的に表現)で組み上がっていれば、その分、鮮明なリザルト(=成功の数値)がイメージできます。

 「絶対ヒットする企画」とは、プロモーションだけがコソコソとヒットするのではなく、やりっぱなしでもなく、「リザルトが約束できる企画」のことです。この点がわかっているクリエイターこそ、「選ばれにくい企画」に賭けたいと思っているのです。

 一方で、人は高い確率のものを過小評価する傾向があります。合理的(客観的)な確率が0%や100%に近く、ほぼ確実な時に過小評価という「勘違い」が起こりやすいそうです。プレゼンで言えば、「クライアントに通しやすい案」を指します。

 「オルタナティブ案」「コンサバ案」「毒にも薬にもならない案」「置きに行った案」「ターゲットがクライアントになってしまっている案」「フツーの案」「A案」などと言われる案です。通しやすい分、その広告効果も想像しえる小さな範囲に収まってしまいます。

 当然、成功の数値は、関わる人間の各ポジションによって見方が変化しますが、「商品が動いた数値」であることは変わりません。いわずもがな、新商品なら絶対値、既存製品なら前年比・前月比の数字となります。

 最後に。なぜ、私はコラムの冒頭で「恵比寿の中華レストラン」という具体的な場所を書いたのでしょうか。そう、これは実話だからです。理性でその原因を説明しえないような自然現象を「奇跡」と呼びます。もう2度と起こらないであろう、それは、それは、奇跡の瞬間でした。

 ※参考文献:「サクッとわかるビジネス教養 行動経済学」

著者プロフィール

小林 孝悦

小林 孝悦 コピーライター/クリエイティブディレクター

東京生まれ。東京コピーライターズクラブ会員。2017年、博報堂を退社し、(株)コピーのコバヤシを設立。東京コピーライターズクラブ新人賞、広告電通賞、日経広告賞、コードアワード、日本新聞協会賞、カンヌライオンズ、D&AD、ロンドン国際広告祭、New York Festivals、The One Show、アドフェストなど多数受賞。日本大学藝術学部映画学科卒業。好きな映画は、ガス・ヴァン・サント監督の「Elephant」。

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