5年先まで使える広告代理店的プレゼンテーション術 (67)

2022年2月18日 08:28

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 行動経済学では、人と同じものを避けようとする心の動きを「スノッブ効果」と呼びます。多くの人は「個性的でありたい」「優越感に浸りたい」という、他者と差別化したい欲求を抱えており、そのため、実際の市場でも「周囲の人が所持していない、世間に出回っていない商品」に対して購入モチベーションが高くなる傾向があります。つまり、手に入りづらいものほど需要が高まり、簡単に手に入るものほど需要が低下することがあるのです。

【前回は】5年先まで使える広告代理店的プレゼンテーション術 (66)

 スノッブ効果は「人は常に他人を無意識に意識してしまう」ことの表れで、別に悪いことではありません。ただ、このスノッブ効果が広告クリエイティブの現場に間違って持ち込まれてしまうと少々厄介です。

 例えば、良き指導者(クリエイティブ・ディレクター)の下で経験を積まなかった若い制作者にあるチャンスが到来したとします。その際、「オレって、ちょっと違うからっ!」という勘違いと実力を伴わない「上昇志向」という勢いだけで作ってしまった企画には、要注意です。

 その制作物は、個性(* 性格として表出したスノッブ効果)が広告としての機能性を弱め、独りよがりな作家性だけが悪目立ちし、上位目的も下位目的も達成できず、社会に作用しない、的外れな表現(手段)として形成されている可能性があるからです。

 他作品(他の制作物)との差異化はクリエイターとしての矜持であり、同業者への礼儀。しかし、それが、効果を目指さずに利己・利得を先行させる個性で作られた代物だとしたら、高いリテラシーを持つ今の生活者の眼にはゴミにしか映らないでしょう。

 クリエイターはマジョリティーを嫌い、マイナーへ走る傾向があります。マイナー路線は悪いことではありません。コピーやデザインをロジックで設計し、コントロールする。ブランドと生活者との接着と展開を計算できていれば良いのです。

 その表現には普遍性があるか。その有無を見極めるディレクションを自身の作品でもできるのか。そして、その訓練を十分にしてきたか。職場、指導者、自身の性格……。表現物とは、さまざまなファクトで構成されて出来ているのです。

 ※参考文献:「サクッとわかるビジネス教養 行動経済学」

著者プロフィール

小林 孝悦

小林 孝悦 コピーライター/クリエイティブディレクター

東京生まれ。東京コピーライターズクラブ会員。2017年、博報堂を退社し、(株)コピーのコバヤシを設立。東京コピーライターズクラブ新人賞、広告電通賞、日経広告賞、コードアワード、日本新聞協会賞、カンヌライオンズ、D&AD、ロンドン国際広告祭、New York Festivals、The One Show、アドフェストなど多数受賞。日本大学藝術学部映画学科卒業。好きな映画は、ガス・ヴァン・サント監督の「Elephant」。

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