日大の田中前理事長は「外弁慶」、妻は「内弁慶」 似合いの夫婦か

2021年12月19日 16:10

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 脱税容疑で逮捕されている日本大学の田中英寿前理事長が妻の関与を認め始め、自身が税務申告の必要性を認識しながらも、申告しないで済ませようとしたことにも言及していると伝えられている。

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 背任事件が明るみに出た際には何かの席で、「俺が逮捕されたら裏金のことを全部ぶちまける」と気勢を上げていたと伝えられていたことを考えると、随分素直になった。

 「ぶちまける」ことが沢山あるように言うのは、「とんでもないことをして来た」と自覚しながら、相手(この場合は地検特捜部?)を牽制していたことになる。地検も随分軽く見られたようだ。

 この先どんな展開になるにしても、地検にとっては妻が本格的な捜査対象に加わっただけのことなので、何ら不都合はないから淡々と捜査をすすめるだろう。

 今回の事件に関連して伝えられる事柄は、田中前理事長が日大の中で絶対的な存在であったことだ。井ノ口忠男容疑者がアメフト事件に関連する恫喝問題を起こし、理事を引責辞任した僅か2年後に、まるで予定されていたかのように理事に復帰している。

 井ノ口容疑者を理事に復帰させた際には、理事会の中で前触れなく理事復帰の議案が掛けられたと言うから、覚悟を決めて異議を口にする前には、理事復帰が決まっていたということになる。問題を協議するどころか、態度を決めかねているうちに、「反対がないようなので」と決まってしまった。あっという間の出来事だったろう。

 そんな配慮を受けた井ノ口容疑者は期待に応えるべく、僅か1年の間に今回の事件の主役を演じた。「自分が言うことは理事長の言葉だと思え」と強弁して相手に有無を言わせないやり方は、「虎の威を借るキツネ」という言葉の、お手本のような分かり易さだ。

 行く先々で価格を嵩上げさせて露骨にリベートを要求し、掠り取った現金を田中前理事長が唯一恐れるという妻に届ける知恵まで見せている。こんな人物を、シナリオをなぞるように理事に復帰させたことだけでも、田中前理事長の道義的な任命責任は疑うべくもないが、問題は田中前理事長が道義に鈍感で何とも感じていなかったことだ。それどころか、井ノ口容疑者を評して「面白い奴がいる」と言っていたそうだから呆れる他ない。

 日大の中で強面で通していた田中前理事長にとって、当選回数の浅い陣笠議員などはまともに話をする対象と見ていなかったと感じられる情報もあるが、自宅の妻の前では全く別の恐妻家の面を見せていたという。今回の脱税の捜査に暫くの間「知らない」を通していたのも、現金の授受に妻の果たした役割を認識していたからだろう。

 井ノ口容疑者や籔本雅巳容疑者は、妻を散々おだてまくって表舞台に引っ張り出したから、結果として妻から送られた「たくさん有難う」というメッセージが携帯に残っていて、妻の関与を補強する証拠になっているのは皮肉なことだ。

 妻は体調不良で入院している。今までは夫も取り巻きも全て自分の言いなりだったのに、家宅捜索で発見された1億円を越える現金を「私とあの人が貯めたものだ」と言い張っても、軽くいなされたショックが相当応えたのだろう。外を吹く風の冷たさに触れて、身も心も萎えてしまった末の体調不良でなければ幸いである。

 日本では、家の外で偉そうに振舞う人のことを「外弁慶」と言い、家の中で我儘を押し通す人のことを「内弁慶」と言った。田中前理事長夫婦は、夫が外弁慶として日大の学内でふんぞり返り、妻は家の中で夫を尻の下に敷いて内弁慶を決め込んでいた。誠にお似合いの夫婦という他ない2人には、揃って罪の重さを噛みしめて貰いたいものである。(記事:矢牧滋夫・記事一覧を見る

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