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外国語を現地で学ぶ時に必要なマインドコンディション
新型コロナウイルスのワクチン接種が全世界的に進み、国内の感染者数は激減した。変異株の出現により事態の急変はあるものの、2年間足止めをくらった海外留学、海外赴任、海外旅行も再開が見えてきた。
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これまでの2年間、主に自宅でお金をかけずに外国語を学ぶ方法を紹介してきた。今回は、留学・駐在・海外旅行など、現地で効率的に外国語学習を進る方法について紹介したい。
まず、台湾の多言語話者、謝智翔さんがTEDでスピーチした時の動画を見てほしい。謝さんはこれまでエクアドル留学でケチュア語を、アフリカ旅行でスワヒリ語を、日本駐在で日本語を短期間でマスターし、習得した言語を忘れずに保持している。彼の成功体験をもとに、海外で外国語を学ぶ時に必要なマインドコンディションについて説明したい。
通过学习多语言来超越沟通的障碍 |Chih-Hsiang Hsieh | TEDxTKU
動画によると謝さんは、アメリカ人学生37人と一緒にエクアドル域内のアマゾンで、インカ帝国の公用語だったケチュア語を学び、2カ月でマスターした。午前中は授業、午後は現地の人々との交流といった学習スケジュールだったようだが、謝さんは学習速度が早かったため授業は免除され、終日自分の好きなスタイルで学ぶことを許されたという。この時の留学経験をもとに、謝さんが現地で語学を学ぶ時に必要と感じた心構えは下記の3つだ
■現地で外国語を習得するために必要な3つの心構え
1)話せなくても話す。
2)聞き取れなくても聞く。
3)歌や模倣で現地の人と会話・交流するチャンスを増やす。
謝さんは、終日、現地の人々の生活の中に入り込み、彼等の言動を観察する中で多くの言葉を情景と共に脳に刻んだという。例えば、台所で、原住民のAさんがBさんに何か話した。するとBさんがコップの水をわたした。情景から、AさんがBさんに水を求めたことが分かる。
この時の声と情景が脳に刻まれるため、たとえその時聞いた単語を忘れても、もう1度同じ情景を目にした時、情景と一緒に刻まれた声が呼び起こされる。子供が生活の中から言葉を習得するのと同じ要領だが、この繰り返しによって、自然と長期記憶につながるというのだ。
大人は辞書で外国語の言葉の意味を知るが、子供は、情景を見て意味を悟り、とりあえず真似して発声する。長期記憶に残りやすいのは、情景と一緒に意味と発音を脳裏に焼き付けるからだという。
この時大切なのは、耳にした言葉を発音してみることだ。意味が分からなくても、発音がおかしくても、母語話者の後について必ず複数回発音してみる。最初は話せる言葉がゼロでも終日耳にした言葉を発音し続けることで、短時間で話せる単語が増えていく。
そして徐々に、単語を2、3語組み合わせたシンプルなフレーズが話せるようになる。文法は気にせずに、自分なりの表現で、可能なかぎり多くの言葉を発することが大切だという。
謝さんはまた、現地の歌を歌って、人々と交流するきっかけとした。外国人が自分たちの歌を歌っている様子を見て、現地の人々は興味津々で色々と話しかけてくれたそうだ。謝さんはこのように、自分から現地の人と会話するチャンスをつくり、2カ月という短期間で言葉をマスターしたのだ。
■外国語習得に失敗する最大の要因とは
謝さんと一緒にエクアドルでケチュア語を学んだアメリカ人学生37人は、謝さんの学習方法を模倣したが、習得には至らなかったという。謝さんによると、外国語習得を妨げる大きな要因は下記の2点だ。
1)意味の分からない言葉を話すのが気まずい、発音が悪いから恥ずかしいと感じるため。
2)聞き取れない言葉を聞き続けることを苦痛に感じるため。聞き取れない言葉を5分も聞き続けると、たいていの人は自分を間抜けのように感じる。謝さんのように、意味の分からない言葉が飛び交う場所に終日座り続けられる人はまれで、ほとんどの人はいたたまれなくなり、すぐにその場を離れてしまうという。
謝さんのスピーチを総括すると、外国語習得に必要なのは、積極的に恥をかこうとする気持ちの持ちよう、心の状態ということになる。外国語習得を邪魔する「恥ずかしい」という気持ちは、もともとそこに存在するものではなく、学習者本人の偏見や思考法によって生まれる。
外国語習得には、メソッドやツールよりも、赤ん坊同様に恥をかくことに無頓着であるマインドコンディションが必要になる。格好良くペラペラ話している人ほど、数え切れないほどの恥をかいているということだ。
せっかく現地で外国語を学ぶ機会に恵まれたのなら、強いハートで、話せない言葉でもどんどん話していきたい。(記事:薄井由・記事一覧を見る)
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