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SMBC日興証券が相場操縦の容疑で強制調査受ける、「異常事態」(下)
世の中の制限や規制の多くは、それらの決まりが制定されるまでの歴史を物語る。道路交通法の最高速度の制限や飲酒運転の禁止はその最たるものだ。最近では、目に余る「煽り行為」が問題となり、処罰の対象になったのが記憶に新しい。
【前回は】SMBC日興証券が相場操縦の容疑で強制調査受ける、「異常事態」(上)
「会社の関係者などが上場会社などの未公開情報を職務を通して知った場合に、情報が公開される前に当該株式を売買すると、原則としてインサイダー取引違反となる」という決まりがある。証券取引に不正がないと安直に信じきれないのは、希少な情報を耳にした不心得者が、ひと儲けをたくらむ可能性がないとは言い切れないところにある。
20年12月、ドン・キホーテの前社長がTOB(株式公開買付け)情報が公開される前に、知人に自社株の購入を勧めたとして逮捕された。前社長が行った、第三者に株式取引をさせて利益を得させる行為が違法と認定され、21年4月に東京地裁で有罪判決を受けた。
当時、前社長は「そんな規定があるとは知らなかった」と言っていたが、第三者に利得を受けさせる行為は2013年の金融商品取引法の改正により規制対象となっていた。社員に徹底させるべき立場だった前社長が、制定されてから5年(当該行為があったのは18年なので)も経過した時点で「知らなかった」が通じず、罪を問われた事例だ。
一般的に、インサイダー情報に巡り合うことはあまりない。自分の勤務とデリケートな情報を抱える時期がマッチングすること自体がレアであろうし、そうした情報に接するような(重要な)立場にいることは宝くじに当選する確率と大差ないほど稀なことだろう。
唯一の例外と言える証券会社には、旬のインサイダー情報が担当者や担当部署に絶え間なくもたらされているから、システムとして堅牢な態勢が構築されて従業員教育も徹底されている筈だ。
今回のSMBC日興証券の事例が不可解なのは、証券取引等監視委員会の調査に対して従業員たちが「特定の銘柄の株価を意図的に操作した事実はない」と説明している点だ。従業員が取り扱った株取引に、株価釘付けの意図があったことが認定されれば、日本の証券取引の信用を失墜させ得る一大スキャンダルと言える。本気で「違法なことはしていない」と思っているなら、今までもSMBC日興証券では同様の事態が繰り返し行われていたことになりかねない。
大手証券会社の絡む証券取引法違反事案が、単なる解釈の相違で発生することは考えられないし、証券取引等監視委員会の勇み足も考えにくい。ましてや、強制調査の情報を耳にした他の証券会社の従業員が、「考えられない」と口にするほどの行為が、SMBC日興証券で再三行われていたとしたら、1企業の不祥事に止まらない重大問題に発展する可能性すら考えられる。(記事:矢牧滋夫・記事一覧を見る)
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