多聴多読で中国語を習得、レベル別学習方法と教材の選び方 初級者編

2021年7月28日 16:05

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 言語学と教育学の専門家である、スティーヴン・クラッシェン氏(Stephen Krashen, 南カリフォルニア大学名誉教授)が、外国語教育におけるインプット仮説を最初に唱えたのは1980~1990年代だ。外国語習得には、多聴多読による大量のインプット学習が重要だという学説だ。

【こちらも】脳科学が太鼓判!「多聴多読」から始める外国語学習法

 当時は疑問視された仮説だが、その後、脳科学の進歩や多言語習得者の実践と成果により、現在では多くの専門家や教育者に有効性を認められている。

 英語教育で認められたインプット仮説だが、中国語やその他の言語でも有効だ。そこで今回から3回に亘って、クラッシェン氏の学説などをもとに、中国語の多聴多読学習において、習得レベル別に最適な教材を紹介したい。

■1. 入門段階はリスニング学習のウエイトを7割に

 スタートしてから6カ月目までは、リスニングの大量インプットを中心に学習を進めよう。

 スティーブ・カウフマン(Steve Kaufmann)さんは、20カ国語を習得し、12カ国語を流暢に操る世界で最も有名なポリグロットで、多聴多読学習の提唱・実践者だ。

 スティーブさんは、外国語学習を始めて最初の6カ月間は、リスニングに70%の時間を費やしている。この学習方法は脳科学的に見ても理にかなっている。学習初期のリスニング大量インプットによって、脳のウエルニッケ感覚性言語野に、神経回路網から形成される言語の中枢を作る。これによって、初めて聞く外国語を正しく理解できるようになるからだ。

 言語野に神経回路網が形成される前に、発音、文法、読解などを中心とした学習を行うのは効率が悪い。変な癖や間違った発音が習慣化してしまう恐れがあるからだ。読解・文法学習も、実際の発声は伴わないにしても、頭の中で目にした言葉を唱えるため、同様のリスクがある。

■2. 東京外国語大学学習モジュールでリスニングの洪水を浴びる

 スタートから半年間の学習に最適な教材は「東京外国語大学言語モジュール」だ。27種類の言語が無料で学べる語学学習サイトで、会話、語彙、発音、文法の4つのモジュールで構成されている。ゆるやかにリンクされた4つのモジュールを行き来することによって、文字、発音、文法、会話、聞き取りなどが効率的に学べる。

 外国語学習を始めてから最初の3カ月は語彙モジュール、次の3カ月は会話モジュールを中心にリスニングのインプットを行おう。毎日繰り返し1~2時間教材を聴いて、神経回路網を形成する。毎日5~6個ずつフレーズ・会話の中で単語を覚えれば、半年後には語彙数が1000個に達する。東京外国語大学言語モジュールの具体的な活用方法については、下記の記事を参考にしてほしい。

27言語が学べる「東京外国語大学言語モジュール」の上手な活用方法

■3. 徐々にリーディングのウエイトを増やす

 入門時のリーディング学習は、東京外国語大学言語モジュール、会話モジュールのMode-4「文字を見て確認しよう」のページを見て、文字に慣れることから始めよう。その後、NHK中国語講座のテキストや、オンライン中国語学習サイト(ユーウェン中国語講座など)も活用し、徐々に語彙数を増やしていこう。

 入門段階では、聞き取りの神経回路網形成が最重要課題になる。神経回路網形成には、大量のインプットによる反復練習が必要だ。幼少期に両親や兄弟の話を聴きながら言葉を習得したように、大量インプットの環境を自分なりに整え、正しい発音を脳にたたきつける。

一旦、神経回路網が形成されれば、あとは、多読学習、文法学習など全ての学習で自分が発声する正確な発音が、ますます脳内の神経回路網を密に力強くしてくれる。

 次回は、中級者の多聴多読の教材と学習法について紹介したい。(記事:薄井由・記事一覧を見る

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