5年先まで使える広告代理店的プレゼンテーション術 (56)

2021年7月5日 15:56

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(C) 2021 Paramount Pictures. All rights reserved. 

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 映画「クワイエット・プレイス2」を観てきました。1作目は親子愛、今作は子の成長が「侵略者VS家族」という構図の中で描かれています。こんなシンプルなテーマにもかかわらず、観る者を没入させてしまうのは何故でしょうか?

【前回は】5年先まで使える広告代理店的プレゼンテーション術 (55)

 従来、私たち観客は、作品を観ながら併行して自分の頭の中でストーリーを組み立てています。無意識に予測しながら観ているのです。ただし、現在進行形の物語のディテールすべてを逃さず咀嚼しながら観ているわけではありません。なんとなく鑑賞していて、所々張られた伏線などに裏切られながら、その都度、理解し、納得しながら、物語の進行についていくわけです。これが「没入」のメカニズムだと私は考えています。

■(58)多くの枷を設定し、それらを壊すアイデアたちが質の高いストーリーを組み上げていく

 では、今作の没入要素とは何だったのか?

【枷(かせ)】の多さです。枷(かせ)とは、「登場人物の目的を阻む、邪魔となるもの、障害、弱点となるもの」を指します。「侵略者VS家族」というシンプルな構図の中に多数仕込まれた枷(かせ)がドラマを盛り上げ、観客を没入させる仕掛けの1つになっています。

 登場人物ではどうすることもできない宿命的な枷(かせ)を投入されると、観客は頭の片隅で「ああ、この人、大丈夫かな……」と気にかけながらドラマを追っていきます。今作では、どのような「枷」があったのか、列記してみました。

 1.「音を立てると殺される」ため、常時、「無音」を強いられる極限状態の世界。

 2. すぐに泣き叫ぶ「生まれたての自制できない赤ちゃん」が家族にいる。

 3. 他者の気配を全く感じることができない「聴覚障碍者」の長女リーガン。

 4. 足を負傷し、「自由に歩けない」長男マーカス。

 5. 「凶暴化」した生存者たち。

 6. 「非協力的」で世捨て人エメットの登場。

 7. 3人の子供を守る「ワンオペ・シングルマザー」のエヴリン。

 たった90分間の中にざっと7個あります。これらの枷をなんとか乗り越えていくことで、ドラマに盛り上がりと厚みを持たせることができるのです。

 今作ではアトラクション感が強化されていました(2ものにありがちです)。ホント、遊園地の競合レベル。4Dじゃないのに、かなりビクつきながら鑑賞できました(貞子よりキテます)。こういった体感効果も、編集テクニック以前に観客をしっかり楽しませようと緻密に仕込まれた「枷」あってのことなのです。

著者プロフィール

小林 孝悦

小林 孝悦 コピーライター/クリエイティブディレクター

東京生まれ。東京コピーライターズクラブ会員。2017年、博報堂を退社し、(株)コピーのコバヤシを設立。東京コピーライターズクラブ新人賞、広告電通賞、日経広告賞、コードアワード、日本新聞協会賞、カンヌライオンズ、D&AD、ロンドン国際広告祭、New York Festivals、The One Show、アドフェストなど多数受賞。日本大学藝術学部映画学科卒業。好きな映画は、ガス・ヴァン・サント監督の「Elephant」。

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