脱欧入亜を目指すのか−英空母「クイーン・エリザベス」インド太平洋への展開(2)【フィスコ世界経済・金融シナリオ分析会議】

2021年5月14日 10:40

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記事提供元:フィスコ


*10:40JST 脱欧入亜を目指すのか−英空母「クイーン・エリザベス」インド太平洋への展開(2)【フィスコ世界経済・金融シナリオ分析会議】
本稿は、『脱欧入亜を目指すのか−英海軍空母「クイーン・エリザベス」のインド太平洋への展開(1)【フィスコ世界経済・金融シナリオ分析会議】』(※1)の続編となる。

中国の強圧的な政治及び軍事活動に対するバランスとして、「自由で開かれたインド太平洋」を追求する日米両国の、クイーン・エリザベス空母戦闘群のインド太平洋方面への展開に対する期待は大きい。

しかしながら、イギリスは恒常的にインド太平洋方面にプレゼンスを示すことができるであろうか。ラドキン英第1海軍卿が述べているように、中級程度の国家が、米中のような大国に対抗できる艦隊を単独で維持することは、兵力規模及び予算的に不可能に近い。今回のクイーン・エリザベス空母戦闘群も、イギリス単独の意思決定ではなく、NATOの枠組で、米国及びオランダが参加している。ここで重要となるのはNATOの脅威認識である。2020年11月に公表されたNATOの戦略文書であるNATO 2030において、ロシアは明確に軍事的脅威と認識されており、敵対的行為には断固対抗すべきとしているが、中国に対しては「安全保障上の挑戦に対応すべき」と表現に差がある。ラドキン海軍卿も「ロシアは明確な脅威であり、中国は挑戦者かつ競争相手」と述べている。NATOとしては、直接的な軍事的脅威はロシアであり、中国への脅威感はそれに比べると低い。今回のクイーン・エリザベス空母戦闘群のインド太平洋方面展開は、あくまでもアドホック(一時的)な行動であり、恒常的に行われるものではないとの理解が必要であろう。

クイーン・エリザベス空母戦闘群のインド太平洋方面への展開が、日本の安全保障に与える影響はどのようなものであろうか。戦略的な側面としては、日英の防衛協力が深化することが挙げられる。日英の防衛協力は、外務・防衛大臣会合(2+2)に加え、物品役務相互提供協定及び秘密保護協定の締結、防衛装備品等の共同開発合意など多岐にわたる。日本は英国と、米国に次ぐ緊密な協力体制を構築していると言える。今回空母を中心とする部隊と大規模な訓練を実施することは、部隊レベルの日英防衛協力規模が今まで以上に拡大されることとなる。また、同空母戦闘群が東シナ海や南シナ海を航行することは、同方面における中国海軍の活発かつ強圧的な活動への牽制効果となり、中国の一方的主張を抑制する圧力になることが期待できる。戦術的な側面では、共同訓練をつうじて、日本でも配備が予定されているF−35B運用要領の取得や戦術技量の向上、多国籍部隊の運用に係るノウハウの獲得などが期待できる。

一方で、日本として取り組まなければならない課題もある。クイーン・エリザベス空母戦闘群が、東シナ海航行時に中国海軍と戦闘行動に発展した場合、日本はどのような法的根拠でどのような行動が可能であろうか。2015年に制定された安全保障法制は限定的ではあるが集団的自衛権の行使を認めている。しかしながら、自衛隊が外国軍隊の部隊を防護するために武器を使用することができるのは、自衛隊と連携して我が国の防衛に資する活動に現に従事している場合に限られる。しかも相手に対し直接武器を使用する危害要件は、正当防衛又は緊急避難のみである。正当防衛と緊急避難しか認められていない護衛艦に英海軍として、信頼して空母の護衛を任せることはできない。日英がどれだけ高度な共同訓練を実施しても、現在の法体系では、実質的な意味合いは低く、象徴的なものに留まるであろう。

「脱亜入欧」という言葉がある。広辞苑によると「(日本の)明治維新後、アジア的なものから抜けだし、西欧に同化しようとした思想や行動」と定義されている。西欧の進んだ文明を積極的に取り入れ、国力を増進し、西欧列強と肩を並べようとしたものである。朝鮮半島や中国への侵略の論理的支柱となったという批判があるが、日本が新たなフロンティアに踏み出すためには、旧態依然たるアジア的価値からの離脱が必要という認識をよく表している。2020年12月31日に欧州連合から離脱したイギリスではあるが、依然としてNATOの一員であり、必ずしも欧州的価値観からの脱却を意図しているわけではない。就役したばかりの虎の子である空母クイーン・エリザベスの行動は、復活したインド太平洋方面への関心に基づく限定的な意味合いのものであり、欧州方面よりもインド太平洋方面の方がイギリスにとって重要であるという「脱欧入亜」を意味するものではないであろう。

サンタフェ総研上席研究員 末次 富美雄
防衛大学校卒業後、海上自衛官として勤務。護衛艦乗り組み、護衛艦艦長、シンガポール防衛駐在官、護衛隊司令を歴任、海上自衛隊主要情報部隊勤務を経て、2011年、海上自衛隊情報業務群(現艦隊情報群)司令で退官。退官後情報システムのソフトウェア開発を業務とする会社において技術アドバイザーとして勤務。2021年から現職。

写真:PA Images/アフロ

※1:https://web.fisco.jp/platform/selected-news/fisco_scenario/0009330020210514002《RS》

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