結核菌の隠れ蓑の術をあばく! 免疫回避の仕組みを解明 鹿児島大の研究

2021年5月6日 08:24

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TREM2を介した結核菌の免疫回避機構(画像: 鹿児島大学の発表資料より)

TREM2を介した結核菌の免疫回避機構(画像: 鹿児島大学の発表資料より)[写真拡大]

 マクロファージは、外から入ってきた細菌や異物を取り込んで殺菌・消化する役目を果たす免疫細胞の1つだ。しかしその免疫を逃れてしまう細菌が、結核菌をはじめとした抗酸菌と言われる菌である。この抗酸菌はマクロファージの中に寄生し居座ってしまうため、免疫の攻撃を受けることなく生涯に渡って体の中に残り、再発の機会を伺うのだ。鹿児島大学は4月28日、抗酸菌が免疫を逃れる新たな仕組みを解明したと発表した。

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 この研究は鹿児島大学の原教授と飯笹助教らの共同研究グループにより行われ、4月16日のオンライン学術誌 『Nature Communications』に掲載された。

 結核は抗酸菌感染症の代表的なものであり、日本は罹患率が10万人に13.3人の「中まんえん国」となっている。また非結核性抗酸菌症という結核菌以外の抗酸菌による肺の病気も増加してきており、非常に難治性の病気となっている。これらの感染症の決定的な治療法はまだ確立されていない。

 抗酸菌とは、細菌を染色する手法のうち「抗酸染色」によって染色され、1度染色されると脱色されにくい菌である。この抗酸菌はマクロファージに取り込まれた後、様々な仕組みを用いて排除を免れていることがわかってきている。そして、抗酸菌の特徴の1つである分厚い脂質の外膜も、免疫系をコントロールする働きを持っていることが、これまでにわかってきていた。

 マクロファージが持つ受容体の1つであるMincleは、抗酸菌の外膜の糖脂質を認識してマクロファージを活性化する。その結果マクロファージは炎症性サイトカインやNOを産生し、抗酸菌を殺菌・消化することはこれまでに知られていた。一方で、抗酸菌がその免疫を回避するメカニズムはまだわかっていなかった。

 今回研究グループは、免疫細胞の活性化に関与する配列モチーフITAMに関連する様々なマクロファージの受容体のうち、抗酸菌を認識する新しい分子を探索。その結果TREM2が抗酸菌を認識することがわかった。ちなみにITAM自身は免疫細胞の活性化に関与している一方で、このモチーフに関連する受容体は免疫を抑制する可能性があることが知られている。

 次にTREM2が抗酸菌のどの部分を認識しているのかを調べた。すると抗酸菌の外膜脂質の主成分であるミコール酸を認識していることが判明。そして、Mincleはマクロファージを活性化し、TREM2は逆に抑制するように働くことがわかった。

 研究チームはさらに、TREM2を作ることができないノックアウトマウスを用いて実験を実施。するとマクロファージは活性化して炎症性サイトカインやNO産生を促進、抗酸菌の排除が促された。つまり、抗酸菌はマクロファージのTREM2に働きかけて免疫の攻撃を弱め、自分自身が排除されないようコントロールすることがわかった。

 今後、この免疫回避の仕組みを明らかにしていくことで、抗酸菌感染症の新しい治療法が開発されていくことに期待したい。(記事:室園美映子・記事一覧を見る

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