5年先まで使える広告代理店的プレゼンテーション術 (51)

2021年4月28日 16:38

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 今日は、アンガーマネージメントについて4回目の寄稿です。某精神科医の著書を参考に話していきます。

【前回は】5年先まで使える広告代理店的プレゼンテーション術 (50)

 その著書は、「『感情的にならない』技術とは、感情的になりそうなシチュエーションを予期して避けること」と説いています。併せて、「結果的に自分の得になればいいので、時には人に頭を下げるのも厭わないことが重要だ」と脱線しています。

 「他人は変えられない」という考えを基に、強い感情をぶつけてきそうな相手に対しては「試合放棄」という身を引く技術を強く推奨しています。私はここに違和感を覚えました。ビジネスは、コミュニケーションを通して他人をコントロールし、納得させ、成果を挙げること。にもかかわらず、相手が昂る理由を確かめずに、「自分が得する」ためだけに、その場から逃げることを推奨しているのです。

■(53)対話をしない「試合放棄」は、思考を強制停止させた「職務放棄」である

 自分の損得を基準に「怒り」を管理する方法は、合理的に見えても、ただの利己主義です。会社員・自営問わず、「自分の得」を目的に進めるクライアント不在(無視)の仕事のやり方は、「社会にバリューを打ち出していく」ビジネスパーソンの社会的使命に反しており、全うな成果を生み出せるわけがありません。

 対話で解決を図らず、自分の損得勘定でその場の怒りを回避したとしても、その考え・愚弄した態度を相手に見透かされれば、反発を食らって、怒りをぶちまけられます。また、自分を殺してまで頭を下げたにもかかわらず、逆襲されたことで自分の中で怒りが発動し、最終的にそれを相手にぶつけてしまう「怒りの応酬」が予想されます。

 仮に職場の同僚と自分がぶつかった場合、近似値のリテラシーを以ってロジカルに相手を変容させることも可能ですし、場合によっては自分自身を変えればいい。なぜ、この程度のコミュニケーションから逃げる必要があるのか、理解に苦しみます。

 ただし、部署異動や特に転職など大きく職場環境が変化した先には、その場所ごとに文化の違いがあり、「共通言語」が存在しなかったり、「同形異義語」の専門用語が存在するケースがあります。このような事態では、対話を継続しても齟齬をきたすので中断するのが賢明です。

 遺伝、育ち方、教育、職場環境。さまざまなファクトから、一人ひとり異なる「性格」や「考え方」が形成されていきます。キレる理由やタイミングがそれぞれ異なる個々人の怒りに、決めつけたマニュアルや講習で対処・制御できるほど、人間は単純ではありません。マニュアルでできることなど、所詮一方的な対症療法です。

 業務にあたる全員がリーダーシップを持って推進していく時代に、逃げ癖がつくようなアンガーマネージメントは、無責任で使えない人間を生む愚策でしかないと私は思うのです。

著者プロフィール

小林 孝悦

小林 孝悦 コピーライター/クリエイティブディレクター

東京生まれ。東京コピーライターズクラブ会員。2017年、博報堂を退社し、(株)コピーのコバヤシを設立。東京コピーライターズクラブ新人賞、広告電通賞、日経広告賞、コードアワード、日本新聞協会賞、カンヌライオンズ、D&AD、ロンドン国際広告祭、New York Festivals、The One Show、アドフェストなど多数受賞。日本大学藝術学部映画学科卒業。好きな映画は、ガス・ヴァン・サント監督の「Elephant」。

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