【映画で学ぶ英語】『ファーザー』:丁寧な表現としての仮定法過去

2021年4月28日 08:20

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 5月14日から公開される映画『ファーザー』は、イギリスの名優・アンソニー・ホプキンスが認知症の男性役に挑んだヒューマンドラマだ。

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 この映画は舞台劇が原作であるため会話が多く、イギリス・ロンドンの中流階級の日常的な英語に触れることができる。今回はこの映画のセリフを使い、丁寧な表現としての仮定法過去の用法を覚えよう。

■映画『ファーザー』とは

 『ファーザー』は2021年に公開されたイギリス・フランス製作のヒューマンドラマ映画。80歳代の男性とその娘が彼の進行する認知症に直面する物語だ。

 原作は、ロンドンやニューヨークでも絶賛されたフランスの作家・フローリアン・ゼレールの戯曲。映画化にあたりゼレールは、映画『危険な関係』でアカデミー脚色賞を受賞したクリストファー・ハンプトンを共同脚本に迎えて、監督も務めた。

 元技術者のアンソニー(アンソニー・ホプキンス)はロンドンの広いマンションに1人で住んでいる。80歳を過ぎて認知症の軽い症状が現れたアンソニーに、娘のアン(オリヴィア・コールマン)はホームヘルパーをつけることにした。

 しかし1人で暮らせると言い張るアンソニーは、次々とヘルパーに難癖をつけて追い出してしまう。そこでアンは自分の家でアンソニーを介護しようとするのだが、彼の認知症はやがて周りの人が誰だかわからなくなるほど進行してくるのだった。

 主演のホプキンスがアカデミー賞の主演男優賞をサプライズで受賞したことも話題となった。またコールマンも、過去にアカデミー賞で主演女優賞の受賞歴があり、名優たちが見せる熟練の演技も見所だ。

■今回の表現

【would】助動詞willの過去形で丁寧・遠慮を表す

 今回のダイアログは、アンがアンソニーを老人専用施設に連れてきたときの会話だ。アンソニーは自分の今いる場所がわからないので、会話が混乱している。

 アンのセリフで使われているcome to a decision(決める、話がまとまる)というイディオムも覚えておきたい。

 Anne: I think it'd be more reassuring and nicer for you, if we came to a joint decision about you living here. What do you think?
 アン:お父さんがここに住むことを決められたら、安心できてよいと思うのですが。お父さんはどう思いますか。

 Anthony: Well, what about you? What would you do? Where would you sleep? Which room?
 アンソニー:君はどう思う、どうするの。君はどの部屋で寝るのかな。

■表現解説

 英語の動詞や助動詞(ここではwill)の過去形には、現在の事実に反することを表すいわゆる仮定法過去という使い方がある。条件を表すif節を伴う場合には、if節の動詞も上にあげたアンのセリフのcameのように過去形になることに注意されたい。

 仮定法と言うとifを使った仮定の表現かと思いがちだが、日常では丁寧で遠慮がちなニュアンスで使われ、if節が省略されることも多い。

 要するに英語の動詞は過去形にすると丁寧なニュアンスが加わる場合があると覚えておくとよいだろう。

 たとえば「アンに頼めば、彼女はあなたの力になってくれますよ」を英語で言いたいとする。直接的にはAnne will help you if you ask herだが、過去形を使ってAnne would help you if you asked herとしても意味は同じで、より丁寧な表現になる。

 このように英語の仮定法過去は日本語の丁寧語のように使える便利な表現だ。今回とりあげた映画でも、would you like something to drink?(何か飲みますか?)など色々な場面で使われている。

 ちなみに静かにするよう頼みたいときは、would you please be quiet?(静かにしていただけますか)と言うと角が立たない。I would give you a lift, but my son has the car today(車でお送りしたいのですが、今日は息子が車を使っていますので)と、できないことを婉曲に伝えることも可能である。(記事:ベルリン・リポート・記事一覧を見る

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