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トヨタとスバルが共同開発車を刷新、新型「GR86」と「BRZ」が発表
トヨタ「GR 86」(左)とスバル「BRZ」(画像: トヨタ自動車の発表資料より)[写真拡大]
ホンダの創業者として名高い本田宗一郎は、小学校2~3年生の頃に初めて自動車に遭遇した。明治39年生まれの本田少年が、生家のそば(静岡県磐田郡光明村:現在の浜松市天竜区の一部)の村道を走る「ホロつきのやつ」と出会い、トロトロ走るクルマの後ろにつかまって暫く伴走したそうだ。
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そのクルマから滴り落ちる油の臭いに魅了され、「両手に塗りたくって、思いっきり胸に吸い込んだ」という本人の記述がある。今のクルマしか知らない我々には想像もつかない挿話だが、クルマに不可欠なエンジンを彷彿とさせる話だ。
オートレースの会場に、けたたましい程のエキゾーストノイズ(排気音)が響き渡るのは当たり前の景色だが、ガソリンやエンジンオイルの臭いも爆音も、思い出話で聞かされる時代がやがて来る。
時期的なブレはあるものの、2035年の前後には世界中でガソリン車の新車を販売することことが出来なくなりそうだ。あとわずか10数年先の話だ。
そんな激動の時期に、トヨタとスバルは2012年にデビューさせた共同開発車の新型車を、オンラインの合同イベントでお披露目した。
トヨタの「GR86」(初代は86・ハチロク)とスバルの「BRZ」はクルマのベースを共用しながらも、トヨタとスバルという自動車メーカーがそれぞれのこだわりをより追求した、スポーツマインドに溢れたクルマだ。
その思いを名称に被せたのはトヨタだ。トヨタには17年から展開しているモータースポーツブランドとして「GR」がある。「GR」に既にラインアップされているスープラ・プリウス・アクア・CH-R・ヤリス・ヴォクシー・ノア・コペンに、86が追加された。開発の大詰めに自らハンドルを握った豊田章男社長の一言で、サスペンションスプリングを変更をしたというこだわりのクルマだ。
スバルのBRZは「スバル象徴のボクサーエンジン(B)を積んだ、後輪駆動(R)の究極(Z)」を意味するだけあって、座席の後ろから蹴飛ばされるような鋭い出足のスポーツカーに仕上がっている。AT車には運転支援システム「アイサイト」が初めて標準装備され、究極の走りと究極の安全を目指した意欲作だ。
日本EVの先駆者である日産が2010年にリーフを市場に投入した際には、(エンジン音がないので)「近づいても気付けないから危ない」とモーター駆動車の特性が逆手に取られて、わざわざ車両の接近を知らせる音を開発したというエピソードもあったが、今回発表された「GR86」と「BRZ」は、シルエットも音も加速性能も存在感と個性が横溢した仕様に仕上がった。
世界の自動車業界がEVへ雪崩を打っているかのような状況では、日本ではエンジン音を響かせるような新顔の登場は期待薄だろう。「GR86」と「BRZ」は本田宗一郎が見た夢につながる、「最後のクルマ」になるのかも知れない。(記事:矢牧滋夫・記事一覧を見る)
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