5年先まで使える広告代理店的プレゼンテーション術 (45)

2020年11月30日 16:54

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 今日は、【イノベーション特講(4)】です。前回は、「イノベーションを生み出す工程」を話しました。今回は、「プロトタイピング」についてです。プロトタイプ(試作品)を早期に製作し、ポテンシャルユーザーにプロダクトとして使用してもらいます。その後のフィードバックから機能や操作性といった様々な観点から「設計」を検証し、修正をかけていきます。この手法を「プロトタイピング」と言います。

【前回は】5年先まで使える広告代理店的プレゼンテーション術 (44)

 「プロトタイプの作り方」は、下記の「2つの目的」を基準にしてください。ユーザーとストーリー、この2つの要素を押さえながら試作品を制作していきます。

(目的1)ユーザー:問題を抱えている人たちからリアルな意見を引き出す。

 不満や問題点に解決を求めている対象者に向けてプロトタイプを作ります。そして、アーリーアダプター(新しいサービスや商品を比較的早期の段階で使う人)を含めた対象者からリアルな使用感と助言をもらい、その後、修正をしていきます。アーリーアダプターは「冷静に価値を見抜く眼力を持ち、論理的に“使わない意思表示”をしてくれる人」で、プロトタイピングには欠かせない層です。(※以下、プロトタイプを「プロダクト(製品)」と言い換えて説明します)

 使用者に先入観を持たせないようにするため、プロダクト(製品)の詳細説明は一切しません。事前に説明することでプロダクトへの評価が甘くなるからです。ただプロダクトを使用者に渡すだけにします。それゆえに、プロダクトは使用方法をすぐに理解でき、「機能が間違いなく作動する」レベルに仕上げておかねばなりません。

(目的2)ストーリー:どんな場面で、どのように使われ、どんな成果を生むのか。

 プロダクトがどのようなシーンで使われ、どのような成果を出すのかを確かめるために、その「使われ方」と「効果」を想定しながら作ります。この一連の流れを「ストーリー」として想像しながら作るのです。たとえば、使用者によっては使用場所を大胆に変更したり、使い方をアレンジする人もいるかもしれません。そういったケースに対応できる汎用性をプロダクトに持たせるか否か、判断しながら作っていきます。

■(47)本音の否定の中に眠る「発明の欠片」を見つけ、レバレッジで完成品に導く


 以前、K原アートディレクターと製作した「ひきこもり脱出ドアプレート」では、完成度5割程度のモックアップを作りました。それは、ひきこもり当事者とその家族のコミュニケーションを復活させるツールでした。

 この場合、都内のNPO団体と保健所、病院の精神科など25カ所以上の関連機関にプロダクトを配布し、来訪するご家族に使用していただくよう協力を仰ぎました。不登校児から長期ひきこもりのお子様を持つご家族へと幅広くお渡ししました。

 そして、プロダクトの使用後は、「使用者からのフィードバック」を回収し、下記の点をチェックします。

(1)実際の現場での使われ方と購入意向

 制作者の狙い通りに使ってもらえたか? 使用者は使いたいと思ったか? 買いたいと思ったか? 「使いたい」層の中でも「お金を払ってでも使いたい」層が存在しなければ、その製品の価値は低く、まず売れません。そして、「使いたくない」層にとってはどの点が問題なのか? 使用者の反応・本音をすべて吸い上げて、アイデアの修正に反映させていきます。

(2)使用者の意見やアレンジから新しい価値が見出されたか?

 使用者の機転・発想で何か新しい使い方が生まれたり、新しい価値が見出されたか? イノベーションの度合いが高い製品ほど使用者の反応は否定的です。しかし、使用者の苦情や意見といった反応の中に起死回生のヒントが隠されています。無根拠な自信で突っぱねるのではなく、苦情や意見を正しい解釈として受け止め、レバレッジをかけることができれば、アイデアを完成品へと導くことができるのです。

著者プロフィール

小林 孝悦

小林 孝悦 コピーライター/クリエイティブディレクター

東京生まれ。東京コピーライターズクラブ会員。2017年、博報堂を退社し、(株)コピーのコバヤシを設立。東京コピーライターズクラブ新人賞、広告電通賞、日経広告賞、コードアワード、日本新聞協会賞、カンヌライオンズ、D&AD、ロンドン国際広告祭、New York Festivals、The One Show、アドフェストなど多数受賞。日本大学藝術学部映画学科卒業。好きな映画は、ガス・ヴァン・サント監督の「Elephant」。

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