74、90、10式戦車の歴史は砲弾と「盾と矛」の関係 (2) 砲弾が変われば防弾板も変わる

2020年11月23日 08:18

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■砲弾の進歩で防弾板(アーマー)も変わる

 しかし、世界政治情勢の変化だけではなく技術的問題として、戦車砲と砲弾の進歩が大きく影響している。90式戦車の前、74式戦車の時代は、戦車の砲塔は鋳造性である。以前は、これに火薬が装てんされていない弾丸である徹甲弾が使われていた。ライフル銃の弾薬を大きくしたようなものだ。それに対し、フランスが成形炸薬弾のHEAT(対戦車榴弾)を使うようになり、戦車の防御鋼板の考え方を大きく変えた。

【前回は】74、90、10式戦車の歴史は砲弾と「盾と矛」の関係 (1) 世界政治情勢と装備の変化

 HEATとは、一言で言えば装甲鋼板を火薬の「火炎で焼き切る」状態になる弾だ。これが大きな効果を発揮してきたため、対抗上、各国で新装甲板が考えられていた。ドイツでは、取りあえずHEATに対応するため、古いレオパルトI戦車の薄い装甲板に本体の装甲とは少し離して足し加えて、その間には隙間を作って二重にして「スペースド・アーマー」とした。

 これは、HEATの「火炎」で鋼板を焼き切る場合、2枚重ねなど間隔があくと、1枚目を切り抜いた火炎が散ってしまい、2枚目を焼き切ることが出来ないことを応用したものだった。こうしてHEAT弾は効果が限定的とされてしまい、第3世代の90式戦車と同世代のレオパルトIIでは、装甲板は「スペースド・アーマー」が常識となった。装甲と装甲の間にセラミックなどを挟んでいるのだ。そのため第3世代以降の戦車は、前面など防弾を施した部分はやけに分厚くなった感がするが、それは違った素材を挟んでいるからだ。

 したがって、第3世代の90式戦車は装甲が厚いために車重もひときわ重くなってしまった。そして、再び運動エネルギー弾(KE弾)に戻ったのだが、単に戻ったのではない。PFSDS(離脱装弾筒付翼安定式徹甲弾)として、弾頭を針のように細くして、その運動エネルギーによって防弾版を突き抜ける方式となった。

■砲安定化装置と照準装置の進歩が、戦車戦を変えた

 戦車の進歩は「射撃統制装置」に見られるが、その中で進歩が著しいのが「砲安定化装置」だ。これは、第2次世界大戦の時とは戦車戦の様相を一変させている。「行進間射撃」が可能となってきたことがポイントだ。つまり、戦車が走っている時でも砲身を安定させ、照準を定められるようになってきたのだ。

 かつては、「停止して射撃するのか、移動するのか」の判断が戦車戦の勝敗を分けていたようだが、現在では「行進間射撃」が可能となり、停車して砲撃する必要がなくなっている。照準装備も進歩して「初段命中率」も向上し、勝負は情報戦となってきている。

 戦車砲は、74式では90mmライフル砲、90式、10式では120mm滑空砲である。これはNATOと規格を合わせており、ライフル砲よりも滑空砲の方が、砲弾が回転していないため、砲弾の威力が増すことでも知られている。

 戦車の威力については、これまでロシアは「砲安定化装置」「照準装置」でNATO軍に比較してかなり劣るが、戦車の数では圧倒的優位を保ってきた。しかしイラク戦争などにおいて、もはやアメリカM1戦車に対しては旧式のT55、T65などでは歯が立たないことが明白になり、NATO正面では戦争になりえない状態であろう。しかし、そこに核戦争にエスカレートする危険が存在している。

続きは:74、90、10式戦車の歴史は砲弾と「盾と矛」の関係(3) 核戦争の恐怖 戦車戦は情報戦(記事:kenzoogata・記事一覧を見る

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