日立が日立建機株売却、「上場企業独立性確保」「ソフト産業に資金集約」で競争力

2020年10月28日 16:26

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 日立建機は、投資先としてみて業績不振である訳ではない。そのため、日立製作所が日立建機の株式を売る目的は別にある。この報道を受けて株価が下がっているようだが、特に懸念材料とは言えず、株式を売却する市場の反応は納得しがたいものだ。

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 「産業革新投資機構(JIC)などが出資を検討している」ことなどから、「成長戦略実行計画」を政府は2019 年6月21日閣議決定しており、「コーポレートガバナンス」を世界標準に合わせることを優先しているものと考えるのが自然だ。

 もちろん、リーマンショックの折に業績悪化をきたしたことが始まりであろうが、コーポレートガバナンスを整える上で、成長分野のソフト産業に資金を集中し、日立製作所は長期的に収益性を確保していく戦略を立てたのであろう。両者は、表裏一体の関係である。

 建設車両業界では、「日立建機: 売上高約1兆円」に対し、「コマツ: 売上高約2兆5千億弱」の日本の巨人がいる。「アメリカ・キャタピラー: 売上高5兆円強」の世界の巨人がいるが、自動車業界と同じく「大変革期」に入っている。

 コマツの「KOMTRAX (コムトラックス)」が日立建機としても当面の目標となっているであろう。「KOMTRAX (コムトラックス)」はメーカー側にメリットが大きいと思われるが、長期的にはユーザー側のメリットとなるシステムだ。

 日立建機とは40年ほど前、筆者は直接の取引が少々あったのだが、まだまだ当時は後発の小さな会社だったが「しっかりとした管理体制」との印象があった。筆者は少しの株式も保有していたこともあり、現状を把握するため工場見学に行ってみようかと思うこともある。日立建機としては、日立製作所の収益改善の戦略的動きとは別に、自社のビジネスモデル構築を図っていけば良い立場だ。

 今回、日立製作所が日立建機の現保有株式51%のうち、半分程度の売却とし、残り半分を維持する理由は、日立製作所のIoTのプラットフォーム「ルマーダ」の関係性があるようだ。日立建機が「ルマーダ」のテストデータ供給企業になっているのであろう。

 日立製作所が、「製造とソフト」の「成長性と関連性」を「成長性はソフトにあり」と捉えているようだ。どの様な比率とすることを狙っているのかは明確でないが、今後、社会全体としては「製造業」がなくなるのではなく、「ソフト」の比重が大きくなってくるのだ。技術的には製造において、手抜きが出来るのではなく、むしろ制御ソフトとメカニカル部分とのつなぎは多くの技術を開発しなければならなくなるであろう。

 また結局のところ、トヨタが「ウーブンシティ」と名付けて富士の裾野で実験しようとしている「スマートシティ」に結び付いていくはずで、それはソフトと製造が結び付いて完成できる世界だ。ただ、IT産業は雇用が限られるため、雇用を確保していく過程は政治的にもかなりの混乱が生じる危険が内包されている。言われているほど自然に新たな仕事が生まれ、誰もが移行できるほど小さな雇用の変動ではなく、AIの普及で「大変動」が起こり、社会の秩序が変化するかもしれない。

 アメリカのラストベルトや日本で起きている銀行のリストラの動きなどからは、新規産業育成の施策が見えていない現状の危険を感じる。日立製作所のような社会的影響力が大きい企業には、短期的な視野ではなく、製造と制御ソフトの関係性をよく理解して、産業施策を考えてもらいたいものだ。資本主義の基本である民間の自然な動きで事足りるとは思えない。(記事:kenzoogata・記事一覧を見る

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