英語がわかるともっと楽しめる 映画『TENET テネット』を理解するのに役立つ5つの英語

2020年10月2日 07:47

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 CIAの元エージェントである「主人公」が、未来から攻撃を受けて危急存亡の秋を迎えた人類を救うため、時間を逆行するというプロットの映画『TENET テネット』。9月18日に公開されたが、日本語字幕や解説作成のために物理学者を科学監修として迎えるほど、難解な内容であるという評判が多い。

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 ここでは視点を変えて、映画『TENET テネット』を理解するのに役立つ英単語やセリフを取り上げてみたい。科学的解説とは違う側面から作品の本質が明らかになるだろう。

■プロタゴニスト

 ジョン・デヴィッド・ワシントンが扮した本作の主人公は、英語のプロダクションノートでは「the Protagonist(ザ・プロタゴニスト)」と呼ばれており、名前はない。

 プロタゴニストという英語には、「主人公、主役」の他に、組織などの「リーダー、主唱者」という意味がある。

 本作が最後のクライマックスを迎える直前、上映時間1時間50分のあたりで、主人公が「I’m the protagonist of this operation」というセリフがある。「自分はこの作戦のザ・プロタゴニスト(主役、リーダー、主唱者)である」ということだ。

 人類を救うという使命を帯びた「テネット」というコードネームの作戦組織の中で、本作の「主人公」が果たす役割を、これほど的確に表現するセリフはないであろう。

■インバート/インバージョン

 本作のプロットの重要な要素となる「時間の逆行」。過去のある時点に一気に戻るタイムトラベルとは異なり、ビデオの巻き戻し映像のように時間を逆方向に進んでいくことで時間を遡るという発想である。

 この「逆行」の原語の動詞invert(インバート)は、「(位置、順序、関係などを)逆にする、反対にする」という意味で普通に使われることが多い。

 時間の逆行に使われる装置のひとつである回転ドア「ターンスタイル」も、欧米でよく見るスーパーの回転式入り口や駅の回転式改札口を指すのに使われる単語。難解な発想を表現するにも、日常的な単語が使われている。

 ちなみにビジネスでは、節税目的で税率の低い国に本社を移転することを、タックス(またはコーポレート)・インバージョンということから、この単語を耳にしたことのある人も多いかもしれない。

■What’s happened, happened.

 時間を逆行することで「過去を変えることはできるのか」と訊く本作の「主人公」に、相棒のニールが答えるセリフ。「これまで起こったことは変えられない」という意味。

 Whatで始まる名詞節が主語、最後の「happened」が動詞という構成だ。日常会話で「起きたことは仕方がない」という意味で「what happened, happened」ということは多いが、このセリフでは現在完了形(「what's happened」)と過去形のニュアンスの違いに注目したい。

 現在完了形は、話者たちに直接関係のある出来事を主観的に語るときに使うが、過去形は過去の出来事を客観的に語る冷たさがある。今まで自分たちが苦楽をともにしてきた出来事は、もう変えることはできない、というニールの諦めを表す印象が強いセリフと言えよう。

■For me, I think this is the end of a beautiful friendship.

 これはニールが、最後に「主人公」との別れ際に言うセリフで、「俺にとっては、美しき友情の終わりだな」という意味。これに対して本作の「主人公」は、「だが俺はまだ始まったばかりだな」と答える。

 実はこのセリフは、名作『カサブランカ』のラストの「I think this is the beginning of a beautiful friendship」をなぞったものであるという意見が多い。元恋人イルザを見送ったリック(ハンフリー・ボガート)が、一緒にいた警部に「美しき友情の始まりだな」と語りかけ、2人で霧の中を去っていく映画史に残るシーンだ。

 本作でも、「主人公」とニールの最後の会話は、彼らの未来と過去を暗示して胸を打つやり取りになっている。

■Don’t try to understand it. Feel it.

 科学的解説で頭の痛くなる人には、本作の中で科学者バーバラが言うこのセリフが救いになるだろう。「頭で理解しようとしないで、感じるのよ」という意味で、この映画の観客へのメッセージともとれるセリフだ。

 CGIを最低限に抑え、IMAXカメラの性能を遺憾なく発揮した迫力ある実写映像。ルドウィグ・ゴランソンの、ときに逆再生のような独特の雰囲気がある音楽。実際、次々と感覚に訴えてくる要素が圧倒的に多く、複雑なプロットを無視しても感覚で存分に楽しめる作品だと思う。(記事:ベルリン・リポート・記事一覧を見る

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