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単語学習中心では足りない! 外国語習得には自然なインプット学習が必須
脳生理学者の酒井邦嘉・東京大学教授は、MRI やf MRI(機能的磁気共鳴映像法)という測定機器を使って、脳と言語の関係を研究している。酒井教授の研究結果から、通訳のようなスピーキングの達人は、発話や文法を司るブローカー野に、神経回路網からなる発話・統語構造の中枢が形成されていることが分かってきた。
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従来、ブローカー野は発話の中枢と考えられていたが、その後の研究により、文法や文レベルの統括処理の機能をも司っていることが分かってきた。会話を行うには正しい音を発することだけではなく、瞬時に単語を正しく組み合わせる構文能力が必要になるが、文単位で統括的に処理する役割はブローカー野が担っている。
外国語を聞き取り理解する機能は、脳の側頭部にあるウエルニッケ言語野だ。リスニングのインプット洪水により、ウエルニッケ言語野に神経回路網からなる言語の中枢を形成すると、外国語が正しく聞き取れるようになる。
それでは、ブローカー野に会話力の基盤となる文単位の統括処理中枢を形成するために、効果的な学習とはどういった方法なのだろうか。
母語において自然に身に付くのが音韻と構文(統語構造)だ。音韻と統語構造を獲得できれば、その言語を聞き取って理解し文を構築して発話することができるようになる。外国語の音韻と統語構造も、できる限り母語の獲得に近づける、すなわち自然なインプットで身に付ければ、母語のように自然な発話が可能になる。
音韻と統語構造を自然と身に着けるために最も理想的な方法は、母語話者と直接話す時間と頻度を増やすことだ。なぜなら、言葉を自然に受容するためには、自然な発話に現れる同じフレーズを繰り返し聞くことで、繰り返された表現が脳に定着するからだ。
しかし母語話者といつでも会話できる環境にいる学習者は少ない。この場合、自然な学習法としては映画や朗読をループ(繰り返し)で聞く方法が効果的なインプット学習になる。
外国語の習得=単語学習と考え、単語中心に外国語学習を進める学習者は多い。確かに、外国語を使いこなすには、一定量の単語を記憶することが重要だ。しかし、単語やイディオムをその日本語訳と共に暗記し続けても、単純な文すら正しく作れない。単語の記憶だけでは子供の言葉の発達レベルではせいぜい2-3歳児の会話文しか作れないのだ。
会話をすらすらとこなせる外国語の獲得には、文の統語構造を脈絡ごと自然に身に着けることが必要で、如何に自然にインプットするかが外国語習得の課題である。このためには、単語学習や文法練習中心ではなく、文の自然なインプットを大量に行うべきだ。すなわち、映画、朗読を自発的に大量に聞くことが統語構造・発話の神経回路網形成の基盤になる。
読書も文単位の自然なインプットには効果的である。しかし、正確に聞き取れる神経回路網が形成された後でなければならない。なぜならば、読書をするときは必ず頭の中で発音をしながら文字を追うからだ。ウエルニッケ言語野に当該言語の中枢が形成される前に多読をすると、不正確な発音を繰り返し学習してしまうことになる。
習得学習仮説は教育現場で実験的、体験的に外国語習得の過程を研究し続けた、Krashen氏が1980年代に提唱した外国語習得に関わる仮説だ。「教育として行われる文法ルールなどを意識的に学んでも外国語を習得できない。外国語の習得は、子供が母語を学ぶプロセスと類似した状態でのみ可能である」といった主張だ。
Krashen氏が教育の現場で体験的に知りえた事実と、酒井教授が言語脳科学的な研究からたどり着いた結論は一致している。すなわち「外国語の習得(中でも音韻、発話と統語構文)は、できる限り母語を学ぶ環境に近づけて、文や脈絡ごと自然にインプットして習得する必要がある」ということだ。
参考資料:山田亜虎、酒井邦嘉『ブローカー野における文法処理』(記事:薄井由・記事一覧を見る)
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