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植物が春の「寒さ」に惑わされず春の到来を感じる仕組みを解明 京大の研究
今回の研究の概要(画像: 京都大学の発表資料より)[写真拡大]
春に咲く花はどうやって季節を知るのだろうか。春と秋は気温の変化や日照時間などがよく似ている。また春は昼夜での寒暖差が大きい。それでも植物は季節を間違わずに開花する。京都大学生態学研究センターの西尾治幾研究員、工藤洋教授らの研究グループは、植物が春の暖かさだけを感じて寒さを無視しし、花を咲かせる仕組みを、遺伝子レベルで解明した。この研究結果は5月1日に国際学術誌Nature Communicationsにオンライン掲載された。
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植物は花が作られることを抑えるFLC遺伝子を持っている。適切な時期に花を咲かせるためにこの遺伝子を厳密に調節することは、進化しての上で大切だったと考えられる。そのため、FLC遺伝子には、その働きを促進する因子だけでなく抑制する因子も存在している。
ヒストンタンパク質とは、DNAに結合して遺伝子の働きを調節するタンパク質である。動物を用いた研究モデルではマウスが使われることが多いが、植物においてモデルとなっているのはシロイヌナズナである。
このシロイヌナズナを用いた研究で、FLC遺伝子はヒストンタンパク質により制御されており、抑制型と活性型のバランスで調節されている。また、長期間低温状態におかれると、抑制型のヒストンタンパク質が蓄積してFLC遺伝子の働きが抑制されることがわかっている。
研究グループは、日本に自生するハクサンハタザオというアブラナ科の多年草植物に着目。このFLC遺伝子においてもモデル植物と同様に抑制型ヒストンタンパク質が蓄積することで、春が来たことを感じていると仮説をたてた。
2年間ハクサンハタザオの自然集団から葉を採取し、サンプルとした。クロマチン免疫沈降法により、FLC遺伝子領域での季節による抑制型および活性型ヒストンタンパク質の量の変化を調査。そして時系列解析などの数学的解析方法を組み合わせることにより、抑制型と活性型のヒストンが相互作用して遺伝子が気温の長期傾向に対応できることが明らかになった。
さらに、春は昼夜での気温変化が大きいため、その制御を詳しく調べるため、ハクサンハタザオの野生個体に対して室内での気温操作実験を行った。その結果、気温が低い状態の時に抑制型のヒストンがFLC遺伝子領域全体に蓄積することがわかったという。そのため通常低温時に応答するFLC遺伝子の発現は抑制され、春の寒さを「スルー」するようになる。このように抑制型ヒストンが歯車の歯止めのような働きをすることが明らかになった
今回の研究は、初めて自然界でのヒストンの機能が明らかになったものである。今後、植物に限らず様々な生物で、変動する環境に順応し対応する仕組みを明らかにしていけるだろう。温暖化の環境下における植物の応答を明らかにしていくことも期待できる。(記事:室園美映子・記事一覧を見る)
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