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新規上場の酒類販売店は「朝5時まで配達します」という変わり種
昨年末、失礼ながら「へ~え」という以外に言葉が浮かばなかった企業が東証2部に上場した。社名はカクヤス。展開している事業は一口で言うと「業務用・一般用の酒類の販売及び配達」。この限りでは「へ~え」とは思わない。ビジネスモデルが「1年365日設営のコールセンター/ECで受けた注文」を「都内23区内なら最短1時間で、酒瓶1本から配送する」と知った時に思わず「へ~え」が口を突いて出た。
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通常、業務用の酒類販売はルート配送。前日に電話やFaxで連絡された商品が、翌日に届けられる。だがカクヤスの場合は、当日の追加注文も可能。その日の天気や客の入り具合に配慮した施策だ。都区内の場合ならpm11時までなら1時間以内に、新宿歌舞伎町や六本木などの「眠らない」繁華街にはam5時まで対応するという。
1921年に祖父が酒類販売店を興したのが入り口。が、カクヤスが売上高1000億円を超える企業となり、上場を果たすに至った牽引者は3代目社長の佐藤順一氏。筑波大学を卒業する直前まで「いやだな」という思いが強かったというが、「背負わされた運命」と割り切り入社に踏み切ったという。
佐藤氏は「料飲店にとり、在庫の圧縮は不可欠な要因。この負担軽減が当社を選んでいただける要因と考えている」とする。その為に23都区内と大阪中心部に店舗及び小型倉庫が網の目のように173カ所、さらに業務用物流センター11カ所が設けられている。こうした体制整備があってはじめてカクヤスのビジネスは可能になっている。
だが千里の道も一歩から、の教えの通り。今日の態勢は2000年前後が契機となった。酒類市場は1990年代の7兆円をピークに減少に転じた。また数年後には「酒類販売免許の自由化」が控えており、大手資本の参入が予想された。
暗礁に乗り上げようとしたそのタイミングに、一人の社員の一言がカクヤスを救った。当時は、宅配は個人向けが主だった。『個人向けだけでなく、業務用の配達もやればいいじゃないか』。まさに「金科玉条」とも言うべき一言。佐藤氏は乗った、いや大幅なシフトに向けて歩み始めた。
飲食店を「夜など困った時には当社に」と真摯に頭を下げて歩いた。結果が現在の「業務用の売上7割」状態につながった。相手に便利さを提供する戦略が功を奏した。
ちょうどメーカーから支払われていたリベートが廃止となり、値引き合戦に身を投じていた酒販店は姿を消していった。対してカクヤスは黒字化(06年)。M&A戦略も展開し売上1000億円の道をスピードアップしていった。
それでも佐藤氏の前を向いた姿勢に変化は見られない。同社に通じたアナリストは「M&Aを軸に地方の大都市への進出を図ろうとしている。種類の配達時間は集中しがち。空いた時間をどう活かすかというテーマと取り組んでいる」としている。
ちなみに上場後初決算となる今3月期の通期計画は「売上1104億6000万円、営業利益18億2000万円」。対して開示済みの4-12月期実績の進捗率は「76%、71%」と上々。コロナウイルス禍という厳しい環境下での上場ながら、ビジネスモデルは評価に値する。(記事:千葉明・記事一覧を見る)
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