5年先まで使える広告代理店的プレゼンテーション術 (29)

2020年3月27日 08:21

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 若い頃、遊んで深夜帰宅しても軽く6時間は睡眠がとれるチャリ通勤圏内に住もうと考え、南青山でアパートメントを借りていました。当時の表参道、西麻布、飯倉あたりはディープなクラブや隠れ家バーばかり。会社の営業が組んでくれる合コンも週2ペース。ほぼ毎晩遊んでいました。

【前回は】5年先まで使える広告代理店的プレゼンテーション術 (28)

 とはいえ、遊び以外の時間は海外クリエイティブの徹底分析に充てていました。200冊程度の海外広告年鑑を入手し、会社のライブラリーではCMのリールをコンテ化したり、そんな自学自習を課していました。

 最初に覚えた超基本的なアプローチの1つに「誇張」という手法があります。たとえば、登場人物に起きてしまった最悪な非常事態を極端に面白おかしく、もしくは恐怖的に誇張して描き、その状態を解決するのがこの商品・サービスですよ!という訴求構造を1枚のグラフィック広告やCMに落とし込む表現方法です。

 「誇張」は超ネガティブな状態を商品でポジティブに転換する見せ方。笑い・ユーモア・恐怖などで心を動かし、人々の「共感反応」を作っていく有効な手段です。私自身も何本か制作しました。でも、そのポスター1枚が実際には社会にどう作用するのか?と高い視座で言及されると、その実効力を証明できないことがほとんどでした。

 このような一発で勝負するグラフィック広告は芯からブランドに寄与することが少なく、「極端な状況描写で楽しませる、けれど、実際は未解決広告」、つまり「鑑賞物」として終わってしまうことがほとんどです。

 生活者の課題解決という観点では「提案性・実効性を欠くマスターベーション的クリエイティブ」とも言えるでしょう。海外クリエイティブの手法が国内でも再利用できるとはかぎらないことに気付いた私は、「1枚のポスターで何か1つの活動を生み出せないか」と考え始めたのです。

■(31)自主プレで小実験を繰り返し、自分を変容させ、確度を上げろ。自己投資でもやれ。


 そこで、近所の「T中屋クリーニング」という小さな洗濯屋さんの店長と顔見知りになった私は、ある相談を持ちかけました。

 「宅配クリーニングやっているんですよね。なら、その宅配ついでにお客さんのいらない服を回収して、アフリカとかに送りませんか?」

 これは、師匠のN島S文ADと2人で企んだ企画です。なんだか大仰に聞こえますが、「実験的に社会課題を解決するポスターでも作ってみます?」と軽いノリで始めたのです。理解ある店長に快諾され、日替わり4枚のポスターを制作。表参道駅と外苑前駅に1週間掲出しました。

 4枚のキャッチコピーは、マジメに抑制して書き分けました。

 「みんなの服、募集。」
 「たとえば、1シーズン着て、なぜか眠っているジャケット、募集。」
 「たとえば、もらい物で、封を開けてないTシャツ、募集。」
 「このポスターは今日で終わるけど、服の募集は終わらない。」

 で、これらの共通ボディとして、
 「衣料不足に悩む、アフリカ・中近東の難民救済にご協力ください。」
 と押さえました。

 ポスターを見て服を郵送してくれる人、宅配時に渡してくれる人。合計でダンボール箱20個分の不要衣服が集まりました。ノーギャラでご協力いただいた神イラストレーター・Y村T彦さんのドープなイラスト&カリグラフィーと、メッセージポイントとのギャップが功を奏し、大量に集められた服は、後日、大阪のNGO団体を通して現地に届けられました。

 小さな実験ではありましたが、1枚のポスターで人を巻き込み動かしたこの時の実感が、その後の「広告との向き合い方」を決定的に変えました。ソーシャルグッドやCSVという概念が日本に輸入されるずっと前の話です。

著者プロフィール

小林 孝悦

小林 孝悦 コピーライター/クリエイティブディレクター

東京生まれ。東京コピーライターズクラブ会員。2017年、博報堂を退社し、(株)コピーのコバヤシを設立。東京コピーライターズクラブ新人賞、広告電通賞、日経広告賞、コードアワード、日本新聞協会賞、カンヌライオンズ、D&AD、ロンドン国際広告祭、New York Festivals、The One Show、アドフェストなど多数受賞。日本大学藝術学部映画学科卒業。好きな映画は、ガス・ヴァン・サント監督の「Elephant」。

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