熱水噴出孔で生命の素となる有機化合物が容易に生成 産総研などの研究

2020年3月7日 21:39

印刷

熱水噴出孔で作られる3種類の天然鉱物と、それらが触媒となって生成されるCO2からの有機物合成反応(画像: 産総研報道の発表資料より)

熱水噴出孔で作られる3種類の天然鉱物と、それらが触媒となって生成されるCO2からの有機物合成反応(画像: 産総研報道の発表資料より)[写真拡大]

 産業技術総合研究所(産総研)らの研究グループは3日、熱水噴出孔において、グライガイト(Fe3S4)等の鉱物が触媒として作用することにより、生命の素となる単純な有機化合物が容易につくられることを確認したと発表した。グループでは、生命誕生の謎を解明するためのブレークスルーになるのではないかと期待している。

【こちらも】東工大など、生命誕生に関する新たな仮説を提唱

■熱水噴出孔とは?
 水深数千メートルの海底では、地下でマグマに熱せられ、ときに400度にもなる熱水を噴出する煙突のような地形が存在する。このいわばミニ火山が熱水噴出孔だ。

 この熱水噴出孔の周囲には、太陽光線が全く届かないにもかかわらず、豊かな生態系が存在することが知られている。そこには微生物からエビ、タコ、カニ、小魚まで、さまざまな生物が生息している。

 ところで、生命は有機化合物が化学反応を繰り返し、単純なものから複雑なものへと進化していくことよって、誕生したと考えられている。これを化学進化という。

 熱水噴出孔では、水素(H2)や二酸化炭素(CO2)が絶え間なく供給されると共に、グライガイト、マグネタイト(Fe3O4)、アワルイト(Ni3Fe)等の触媒となる鉱物が豊富に存在する。そのためこの化学進化が進みやすく、現在、地球上の生命誕生の場として、最も有力視されている。

 しかし、このような化学進化については、実はまだよく解ってないことが多い。その1つが、化学進化の起点となる、単純な有機化合物がどのようにしてつくられたのかという問題だ。

■鉱物が触媒に 生命の素となる単純な有機化合物を生成
 今回の研究成果は、この点に光をあてるものだ。

 研究グループは実験を繰り返し、グライガイト、マグネタイト、アワルイト等の鉱物が触媒として作用することにより、生命が生存可能な100度以下の穏やかな条件下でも、水素によって二酸化炭素が還元され、さまざまな単純な有機化合物が生じることを確認した。ちなみに、水素を得る反応を還元反応、水素を失う反応を酸化反応という。

 研究グループによれば、このようにして生じた単純な有機化合物が、化学反応を繰り返し、次第にたんぱく質、核酸、脂質等の複雑な有機化合物へと進化し、最終的に生命の誕生に至ったと考えられるという。また、地球以外の天体でも熱水噴出孔等が存在すれば、生命が誕生する可能性が考えられるという。

 研究グループでは今後、上述した還元反応によって、単純な有機化合物だけでなく、長鎖脂肪酸や核酸等の複雑な有機化合物も直接つくられるかどうか検証していくとしている。

 生命誕生の謎が解明されることも、そう遠くない未来かもしれない。(記事:飯銅重幸・記事一覧を見る

関連記事