リコーが再生に賭した新たな方向性

2019年11月13日 09:41

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 リコーの収益改善基調が明確になってきている。2017年4月にCEOに就任した山下良則氏が着手し進めてきた「構造改革」の成果と捉えることができる。

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 リコーの成長を支えてきた「複写機」「ファクシミリ」「レーザープリンター」は、急速な電子化による需要減に晒された。デジタルカメラはスマホにその座を奪われた。サーバーはクラウド化の進捗で需要減衰を余儀なくされた。

 山下体制下で後述するが新たな方向性が示され、それに対応する為に施策が打たれた。8000人からの人員削減もその一環だったが、目を惹かれたのは「社長室廃止」だった。

 かつて名門:東レの再建に臨み成功した故前田勝之助氏が打った施策に「社長室スタッフの総入れ替え(旧スタッフは全員現場に。新スタッフは現場精通組から登用)」があった。前田氏から「評論家はいらない。改革・蘇生は現場リードで実現する。大企業病は叩き潰さなくてはならない」と聞いた。その後の山下氏の足跡を追うと、相通ずるものを感じる。

 リコーの18年3月期は構造改革の実施で「1156億7600万円の営業損失、1353億7200万円の最終損失」と陥落した。だが19年3月期は「868億3900万円の営業利益、495億2600万円」と回復基調入り。そして今3月期は「15.2%の営業増益(1000億円)、22.8%の最終増益(620億円)、3円増配26円配当」計画。4-6月期を順調に通過した。四季報・秋号の業績欄の見出しも【改善続く】。営業利益:1050億円、純益635億円に独自増額している。

 山下氏が示した方向性は『EMPOWERING DIGITAL WORKPLACES』。IR担当者は「これまでのいわゆるオフィスから、働く場所:ワークプレイスへ。さらに社会へと価値の提供領域を拡大するとともに、仕事をデジタル化しデータを知見に変換することで“知の創造”を支援していく方針」と説明した。いささか難解。

 四季報の材料欄は【ヘルスケア】の見出しで、「計測困難な脊髄の神経活動を測定する脊磁計の開発成功、脊髄疾患の研究寄与」と記している。「社会(ヘルスケア分野)」の注力に関しIR担当者は、「脊磁計もシステム。介護業界で言えば、介護施設業者や居宅介護施設の介護業務システムの導入相談に応じ、“ネットワークの構築・保守・セキュリティ対策”を提供、適宜なシステムの仲介を行う。経営支援サイト“けあコンシェル”の展開を進めている。グループのリコーリースではこれまでの実績をベースに介護業務用事務機や介護車両などのリース、介護報酬のファクタリングサービスを行う」と噛み砕きに必死だった。

 こう記せば分かりやすいだろうか。例えば介護業者に向けてのファクタリングの展開は、中小業者が多い業界では資金の回転は必須の課題。現行では介護保険金の申請から受領まで約2カ月間を要する。対してファクタリングサービスを利用すれば、約1週間で最大8割を資金化できる。「2カ月先の満額に対し1週間で8割」の持つ意義は大きい。

 昨年には「リコーみまもりベッドセンサーシステム」の販売を開始している。ベッドの足の部分に設置されたセンサーで、利用者のベッド上の状態/24時間の生活リズムを把握する健康支援ソリューションシステム。「今後はベッドセンサーに加え血糖値計や血圧計で計測した生体情報、カメラ等の情報・介護記録などの情報を統合的に活用した統合型見守りシステムに拡張し、健康寿命の延伸に寄与するシステムを提供していく」としている。

 かつて醸成した技術力を活かしどんな優れたソリューションシステムを開発・構築しても、要はその提供体制。幸いリコーにはこの間に積み重ねてきた顧客基盤+全国428カ所のサービス拠点という、貴重な武器がある。

 ちなみに株価動向は再生への流れに一抹の「?」を抱いているかに見える。時価は900円台前半から半ばと年初来高値から250円から下値にある。が、担当アナリストの評価は徐々に高まりつつある。IFIS目標平均株価1166円。14人中「強気派」が5人にまで増えてきている。

 リコーの再生の足取りを、しかと見届けたい。(記事:千葉明・記事一覧を見る

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