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ALSを誘導する神経変性は言語機能障害を誘導する 名大の研究
名古屋大学の小倉礼研究員らの研究グループは9月3日、筋萎縮性側索硬化症(ALS)の患者が、「田舎」「昨日」といった熟字訓の熟語を音読することが難しくなるメカニズムを解明したと報告した。
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ALSとは運動神経が選択的に変性することによって運動麻痺や筋萎縮を起こす疾患であり、物理学者のスティーブン・ホーキング博士が罹患していたことでも知られている。一方で、ALSは運動機能だけでなく言語機能にも障害を及ぼすことが近年報告されており、今回の研究ではALS にみられる神経変性が、言語機能の低下を引き起こす具体的なメカニズムを初めて明らかにした。
熟字訓とは、漢字2文字以上の熟字全体に日本語の訓をあてて読む熟語のことであり、正しい読みをするためにはその熟語が持つ意味を合わせて理解することが重要である。したがって、熟字訓の音読が困難になることは、言語の意味の記憶に障害があることを示している。
そこで最初に、「足袋」などの日常であまり使われない熟字訓をALSの患者71名と健常者68名に音読させ、その正答率を比較した。その結果、健常者の下位5%の正答率に満たなかったALS患者は全体の52%にも及んだ。この結果から、神経変性が言語の意味の記憶に障害をもたらすことが明らかになった。
次に研究グループは、MRIを用いて、ALSにみられる神経変性が言語機能の障害を引き起こす脳内のネットワーク変化を解析した。その結果、右紡錘状回や舌状回を中心とするネットワークが減弱していることが明らかになった。この部分には形態認知や記憶、言語の意味の記憶、そして発話などの運動機能に関わるネットワークが存在するため、これらの脳機能に障害が及ぶことで熟字訓の音読が困難になったと推測している。
一方で、言葉の意味を理解し記憶する領域や、文字から直接言葉の持つ音を導き出す左中下側頭回を中枢としたネットワークは増強していた。この変化は、右紡錘状回や舌状回を中心とするネットワークの減弱に伴って生じた、代償性の変化である可能性が想定されており、今後さらなる解析が望まれる。
これまでの神経疾患の研究では、単一の病巣を想定しているものがほとんどであった。一方で今回の研究成果は、神経ネットワーク全体に注目して病巣を理解している点で新規性があり、今後の神経疾患研究に新たな病態理解の視座をもたらすと期待される。
研究成果は、9月3日付の「EBioMedicine」の電子版に掲載された。
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