大気を消失した火星の過去 NASAが定量化に道筋をつける研究

2019年9月8日 07:49

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現在の火星表面(左)と過去の火星表面の想像図(右)(c) NASA’s Goddard Space Flight Center

現在の火星表面(左)と過去の火星表面の想像図(右)(c) NASA’s Goddard Space Flight Center[写真拡大]

 火星はかつて、地球同様生命が維持可能な大気が十分存在したと推測される。だが、過去の火星環境が地球にどの程度類似していたかや、厚い大気が存在した期間等に関して、謎が多く残る。米航空宇宙局(NASA)は6日、火星に存在した大気の定量化に向けた新しい研究成果を報告した。

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■惑星探査で明らかになった火星の大気

 NASAは、1970年代に実施されたバイキング計画や、近年ではメイブンやキュリオシティ等の探査機により、火星の探査を実施した。その結果、液体水が存在しうる温暖さを保てる厚い大気が火星に存在したが、約数十億年前にそのほとんどが消失したことが判明した。生命が維持できる環境から、現在のような寒冷で乾燥した環境へと火星は変化した。

 火星に過去存在した大気量を推定する取り組みが実施されてきた。手法の1つが酸素の同位体を調査することだ。3つの安定同位体が酸素には存在するが、質量数が16である軽い酸素は、質量数が18である重い酸素よりも早く宇宙空間へと放出される。そのため、火星大気中の重い酸素の割合が次第に増加する。地球と比較しても、火星には重い酸素の割合が高いという。

■日によって変化する酸素同位体の比率

 重い酸素と軽い酸素の比率を比較することで、過去に存在した火星の大気量が推定できる。しかし従来方法の問題は、同位体の比率がミッション毎に一貫しない点だ。1日のなかで比率が変化するという。データによって過去の火星大気の理解が変わるため、正確なデータ算出が要求される。

 NASAの研究グループは、1日における同位体の比率の変化を、方法を固定して測定した。その結果、地球と比較して、夜には重い酸素は約9%低く、昼には約8%高くなることが判明した。

 地表の温度に依存して周期的に同位体の比が変化するのが原因だと、研究グループは推測する。軽い酸素と比較し重い酸素は、夜になると温度の低い表面に固着し、昼になると温度の影響で大気へと解放されるという。

 今後、本研究が過去の火星大気の推定を洗練させるのに貢献することが期待されるとしている。

 研究の詳細は米惑星科学誌Icarusにて8月1日に掲載された。(記事:角野未智・記事一覧を見る

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