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夢の新素材「カーボンナノチューブ」、裂けにくい幾何構造を特定 名大など
カーボンナノチューブと代表的な構造材料の比強度の比較(写真:科学技術振興機構の発表資料より)[写真拡大]
ダイヤモンドや黒炭など、多彩な分子を生み出す炭素。名古屋大学は19日、炭素から構成されるカーボンナノチューブから、引っ張りに強い分子構造の特定に成功したと発表した。
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■鋼の20倍の強度をもつカーボンナノチューブ
1991年に日本で発見されたカーボンナノチューブは、炭素から組成される分子だ。軽量ながらも鋼の20倍の強度をもち、巨大な構築物や燃費の良い輸送機器への応用が期待される材料のひとつである。
カーボンナノチューブの強度の秘密は、その幾何構造にある。炭素原子が網の目のように結びつき筒を形成する。形成されたカーボンナノチューブの直径はヒトの髪の毛の5万分の1にすぎない。だが炭素原子が強力な蜂の巣格子状に結合されているため、単位質量当たりの強度は鋼を大きく上回る。
カーボンナノチューブの問題点として、構造から物理的特性を測定しにくいことが挙げられる。カーボンナノチューブには直径や炭素の並びが異なる構造が無数に存在するが、そのなかから実用に適した分子の幾何構造を特定するのは難しい。裂けやすさに関わる「引張強度」を計測するにも、分子の小ささから困難だという。
■多彩なエキスパートが研究に参加
カーボンナノチューブの引張強度を計測する方法の設計のために、研究グループには物理、化学、機械工学の専門家が参加した。その結果、幾何構造が異なる16本の単層カーボンナノチューブについて、引張強度の測定に成功した。とくに「アームチェア型カーボンナノチューブ」と呼ばれる直径の小さい分子において、その引張強度が最高だと判明した。
一方で実用化までには、さらに困難が伴うという。実用化のためにカーボンナノチューブを束ねてロープ状にするが、1本ごとの強度にバラツキがあると、強度の低い部分からロープの破断が始まるという。だが破断の理由が幾何構造のバラツキによるのか、合成時に導入した欠陥によるのかは明らかではない。今回の実験結果はこれらの原因特定の指針となる。
カーボンナノチューブの大量合成やより長く欠陥の少ない分子の合成、強度を保って編む方法など克服すべき問題を解決し、強くて軽い構造材料の実現が今後の目標だという。
研究の成果は、英科学誌Nature Communicationsにて10日に掲載されている。(記事:角野未智・記事一覧を見る)
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