5年先まで使える広告代理店的プレゼンテーション術 (11)

2019年7月12日 17:54

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 先日、某広告代理店の入社3年目の男性社員と話した時のことです。彼は非クリエイティブ職で、コピーライターになりたいと話していました。以前会った時はCMプランナーを希望していたはずですが。

【前回は】5年先まで使える広告代理店的プレゼンテーション術 (10)

 コピーライターもCMを考案しますし、CMプランナーもコピーを書きます。しかし、この2つの職種は似て非なるものです。ブレてるな、と思いつつ、話を聴いていたところ、

 「オレ、○○○に勝ちたいんすよ!!」

 ○○○とは、彼の同期でコピーライター職です。

 「ん? 何で、○○○君に勝ちたいの?」

 と訊いたところ、回答に困っていました。横にいた彼の先輩は「うんうん、勝てばいいじゃん!」とやり過ごしていましたが、私は違和感を覚えました。勝つべきものが違うのではないかと。

■(13)人が最優先する行動に勝つ、広告を。

 クリエイターが勝つべき相手とは、社内の同期でも、競合他社の制作者でもありません。「生活者が起こす最優先行動」に勝つべきなのです。「プレゼン術」以前の話です。

 人は、新聞・雑誌なら記事を、テレビなら番組を、ネットなら動画やSNSを最優先にチェックします。その最優先行動を遮る「驚き」のクリエイティブを提示し、それが「シェア」されるように受け手のモチベーションを上げることがクリエイターの仕事です。これは一つの手法でしかありませんが、マス時代からの普遍的概念です。

 好例を紹介します。銀座ソニービルと渋谷109の壁面に高さ16.7mの津波をイメージしたヤフーの防災啓発広告は、「先を急ぐ」人々の足を止めました。また、少し前になりますが、巨大な貞子人形を載せた「メガ貞子トレーラー」が渋谷を“怪走”した、映画「貞子3D」プロモーションは、もはや正気の沙汰ではなく、メガ貞子の呪いは見事に「拡散」されていきました。

 先を急ぐ人々の足を止め、拡散に成功したこの2つの広告には、共通する部分があります。コラム(8)で少し触れましたが、現状のブランドイメージや商品といった企業の「コアの部分」や「本編」を上回るハイクオリティの広告にとどまらずにワークしている点です。実施に至るまでの労苦は想像に難くなく、共に素晴らしいプロモーションでした。

 最後に。広告クリエイターにかぎりませんが、何かを創出する表現者というものは会社と違う論理で生きている、そんな部分があるものです。気概とも言い換えられるその部分は、人それぞれ。クリエイターになれるかどうかの見極めは、その有無で自己判断してもよいかもしれません。

著者プロフィール

小林 孝悦

小林 孝悦 コピーライター/クリエイティブディレクター

東京生まれ。東京コピーライターズクラブ会員。2017年、博報堂を退社し、(株)コピーのコバヤシを設立。東京コピーライターズクラブ新人賞、広告電通賞、日経広告賞、コードアワード、日本新聞協会賞、カンヌライオンズ、D&AD、ロンドン国際広告祭、New York Festivals、The One Show、アドフェストなど多数受賞。日本大学藝術学部映画学科卒業。好きな映画は、ガス・ヴァン・サント監督の「Elephant」。
http://www.copykoba.tokyo/

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