待たれる認知症治療薬のこれまで、そして今

2019年6月25日 11:47

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 4勝146敗。米国研究製薬工業協会は、1998年から2017年の20年間にアルツハイマー型認知症治療薬として承認された新薬が4に対し、失敗した治験の数は146に上るとしている。治療薬に関してはファイザーやメルク(米国)、ロシュ(スイス)など世界の名だたる製薬会社が開発に挑み一敗地に塗れてきた。件の4件の承認新薬もその後、画期的効果が認められたといった報は伝えられていない。

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 6月20日に警察庁のまとめで表面化した日本の「認知症患者の実態」には、あらためて驚かされた。2018年の1年間に行方不明の届け出が出された数は1万6927人と、17年から1064人増えた。6年連続の過去最多更新である。統計開始の12年に対し1.7倍に増えているという。無論、全員が認知症者ではあるまいが警察庁は「徘徊中に車などにはねられるなどして、508人が命を落とした」ともしている。

 前に、私の義母が認知症を患い、徘徊を目の当たりにしたことを記したことがある。義母は地域包括支援センターの協力でグループホームに入居。夜中にトイレに立ち、転げ足を骨折。足の骨折自体は癒えたが精密検査で胸部に「水が溜まっている」と判明。徘徊で命こそ落とさなかったが、そのまま看取り病棟で一生を終えた。

 自らの年齢を勘案しても、「団塊の世代が全て75歳以上になる25年には(認知症者は)約730万人に達する」という推計に接すると、他人事ではない。(アルツハイマー型)認知症治療に有効な薬の出現が待たれる。

 だが前記したしたように、治験段階で「×」となるものが後を絶たないのが現実である。前3月期決算の席上、こんなシーンが見受けられた。

 エーザイ。有望視されていた治療薬の1つにエーザイとバイオジェン(米国)が共同開発を進めていた「アデュカヌマブ」があった。しかし突如、治験中止となった。ロイターは京都府立医科大学の徳田隆彦教授の「成功するのでは、という期待があった。今回の失敗は業界にとって大きなショックだ」とするコメントを配信している。

 だがエーザイは、「治験中止」の翌日、やはりバイオジェンと共同開発を進めていた新薬「BAN2401」で「第3相試験を始める」と発表した。5月13日に19年3月期決算発表に臨んだ内藤春夫社長には当然、新薬への質問が飛んだ。内藤氏はこう答えている。「成功確度は高いと考えている」。

 しかしその後の株価の動向を見る限り「4勝146敗」が重くのしかかっている。5月14日は13日の終値に対し210円高(3.3%上昇)まで買われ、その後6692円までつけるも本稿作成中の時価は6200円トビ台にとどまっている。いかな「物言う」株価でも、認知症治療薬開発の先行きを示すには荷が重すぎるということだろうか。(記事:千葉明・記事一覧を見る

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