サムスンの折り畳みスマホ発売延期は、「英断」か

2019年4月25日 09:06

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 韓国のサムスン電子は、26日に米国で発売を予定していた折り畳みスマホ(フォルダブルスマホ)の発売延期を、23日に発表した。

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 サムスンの23日の声明は、「画面の折り畳み部分の部品に不具合の可能性がある」という漠然とした内容で、実機を目にしていない我々には具体的なイメージに結び付かないが、不具合と見なされる個所にはサムスンが「最も開発に苦労した」という部品が使用されているようだ。

 画面を広げて使えることが最大のセールスポイントであるフォルダブルスマホにとって、キモと言える最重要部分に不都合があるということでは興醒めだ。折り畳むための可動部分がスマホに追加されたため、実用に支障がないように耐用年数を確保するという課題が発生する。開発段階では十万回単位の折り畳み試験が行われたと思われるが、体験用の端末を使用していたメディアから不具合の指摘を受けた。そのメディアは、将来的に折り畳み部分にシワや傷が発生する可能性があると指摘している。

 メディアからの指摘が、つい最近あったわけではないだろう。恐らく体験用として提供された初期のうちから、ポツン・ポツンと遠慮がちな疑問の声が上がっていた。メディアに提供された体験用端末の目的は、発売前の前景気をあおるところにあった筈だから、お門違いの控えめな疑問はしばらく見過ごされていた。製造にゴーサインが出て、配送前のストックが積み上がっていた時期に、どうしても気になる事象として消し込み切れなかったのが、メディアからの不具合の指摘だった。

 製品として出荷される前段のプロトタイプモデルに不都合が出るのは、ある意味当然のことである。言い方を替えれば、不都合を焙り出すためにプロトタイプモデルが制作される。今回は、焙り出すべきプロの部署が見逃して、素人であるメディアの何気ないこだわりが大きな意味を持った事例だ。

 革新的な商品は、革新的であるが故の「詰め切れなさ」を内包する宿命を持つ。折しも、「世界初発売」を競っていた中国の華為技術(ファーウェイ)がフォルダブルスマホの発売時期を、予定していた6月から9月に延期する可能性が出てきたと報じられている。つられ記事なのか、観測記事なのか勇み足なのか、情報が錯綜していて詳細も不明だが、言えることはどちらも舗装された道をのんびり歩いているわけではないということだ。水たまりを飛び越えたり、窪地を避けたりしながら、並走者に負けまいとして走り続けている。時につまづくことは、織り込んでいなければならない。

 フォルダブルスマホの「世界初発売」が、サムスンになるのかファーウェイになるのか、勝負の行方は闇の彼方だ。画面が大きくなれば消費電力が嵩み、電池の持ちが悪くなるだろうし、折り畳む可動部分には耐久性の問題もある。折り畳む画面に保護シートを張ることが可能なのかという実用面の疑問に加えて、高価格という最大のネックがある。アップルでさえ低価格スマホへのシフトが報じられる時期に、現在の高級機の2倍前後にもなる価格が、市場にどう評価されるかは未知数だ。

 発売を延期したことによる経営へのダメージを懸念する声もあるが、有形・無形のマイナス要因を全て理解したうえで、立ち止まって深呼吸をする判断に至ったことを評価したい。息を整えて、再度走り出した時の順位が1位であろうが、2位であろうが気にすることはない。高額な商品を購入した人に期待に叶う商品を届けること以外に、サムスンの存在理由はないと思う。(記事:矢牧滋夫・記事一覧を見る

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