米マイナーリーグでロボット審判登場 スタジアムの熱気は保てるか

2019年3月26日 21:27

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 AI(人工知能)が能力を高めるにつれて、これまで人間しかできないと言われていた業務でもAIがこなすケースが見られるようになってきている。アメリカでは、人気スポーツの一つ、野球の審判を機械化するための実証実験が行われることになった。

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 主審を務めるこのAIは、審判に変わってストライク、ボールの判定をし、AIの後ろに立つ人間の審判はその判定結果をアナウンスするだけ、という役割だ。審判を機械化できるかというこのテストは、2019年4月からマイナーリーグで導入され、3年間かけて導入の可否を検討する予定だ。

 判定が機械化することで、誤審がなくなり野球が正しくなるという点は評価できるが、一方で審判は人間がやるもの、機械の判定ではスポーツが面白くなくなるという声もある。今回はマイナーリーグでのロボット審判導入に関するアメリカでの報道と、周辺の状況を報告しよう。

●アンパイアをAI化することの意味

 AIの発達により、人間の仕事が機械にとって変わられることを懸念する声が高い。オックスフォード大学の研究によれば、現在ある職業の47%は近い将来に機械に置き換えることが可能であり、マッキンゼー社は2030年までに世界で400万人分の仕事が消失すると予測している。すでに部分的に機械に置き換わっている仕事もあり、スポーツの審判はそのうちの一つだ。

 審判業は、経済誌フォーブスによる将来なくなる仕事Top20の中にもランクインしている。野球以外のスポーツではすでに、試合中の判定について一部の役割を機械に任せることが行われている。テニスのホークアイ・カメラによるライン上のボールの落下点の判定や、サッカーのゴールラインテクノロジーはすでに定着した感がある。

 これらの技術はボールの動きを複数台のカメラでとらえ、軌道を計算して三次元空間でプロットし、テニスのサイドラインやサッカーのゴールマウスとの位置関係を画像に再生、表示するものだ。野球のストライク、ボールの判定も内容としてはこれと同じこと。技術的なハードルは高くないことが予想される。

 今回ロボット審判を導入するマイナーリーグは、東海岸を中心として8チームが参加するアトランティック・リーグ。このリーグは将来の野球のあり方を考えるためのテストとして新しい試みを取り入れており、ロボット審判もその一つだ。

 現在、アメリカでメジャーリーグのテレビ中継を楽しむファンは、ネット上で同じ試合をビデオで解析するサービスを受けることができる。今の球は審判がボールと判定したが実はストライク、といったコンピュータによる情報が、試合と並行して発信されているわけだ。このサービスのデータによれば、野球のアンパイアの誤審は非常に少なく、試合によっては98%が正しく判定されることがある。

●AIが審判をやるべきなのか

 技術的な問題だけ考えるならば、AIが球場でリアルタイムに審判を務めることは可能だろう。但し、AIが審判を務めた場合に、必ず正しく判定できるとは限らない。打者がバッターボックスで取る動きや、投手の投法などによってはカメラが正しくボールを捕捉できない可能性があり、そのために人間の審判の判断が必要になる場合がある。

 また、主審の役割は投球の判定だけではないから、AIが導入されたことで人間の主審が不要になるわけではない。とはいえ、数%しかない誤審を「防ぐ」ためにAIを導入することが有意義かどうかについては異論がある。アメリカのスポーツ情報誌スポーティングニュースが、現役のメジャーリーガーに対して行った聞き取りの結果では総じて否定的な声が多いようだ。

 特に改善されることがないのではないか、という声が多く、今のままで問題はないからわざわざ機械に変える必要がない、又は機械に判定されるのはいやだという選手もいる。機械が判定すれば判定のぶれがなくなるのは有難い、という肯定的な意見もあるが、一方でスポーツは人間がやることで、機械が導入されればそれだけスポーツの偉大さが失われると言う強い否定的見解もある。

 実は、審判の判定をビデオ上でコンピュータが行い、主審は判定をしないという試合形式が実際にとられたことがある。2015年の夏、カリフォルニアの地方リーグの試合でこのシステムが実施された。バレホ・アドミラルズ対サン・ラファエル・パシフィックスの試合では、上々の結果を収めており、プレイした選手達も判定が正確になるので余計な抗議などが出なくてよい、と総じて満足だったようだ。

●ロボット審判と新しいスポーツのあり方

 もしも審判が機械になるなら、そのロボット審判の特性に応じて野球が変わり、その結果として野球が面白くなくなるのではないか、という考えがある。これまでにロボットが審判を務めた試合では、打者が低目すぎると判断したボールをロボットがストライクと判定するケースがよく見られているという。

 ストライクゾーンは立体だ。従ってストライクゾーンの一番投手に近い側のギリギリの低目を通る球には、打者が芯で捕らえることが難しいストライクがある。ロボット審判が一般的になれば、このようにストライクゾーンの1点だけを通ってストライクゾーンの外へ逃げていく球が有効になる。

 前述したような低目ギリギリのストライクゾーンを通って落ちる球を投球すれば、このボールはワンバウンドするストライクになる。大きく手を横に伸ばすサイドスローの投手が投げるスライダーが、ストライクゾーンのギリギリ外を通って更に外へスライドするならば、捕手が取ることすら難しいだろう。

 サッカーではオフサイドの判定をビデオで行う技術が研究されており、線審は近い将来にロボット化が実現するとも言われている。一方でロボットの線審がファウルの判定をするなら、その線審の判定を惑わせるような新しいフェイクプレイが登場するだけだという意見もある。

 ゲームをロボットがコントロールすることがよいかどうかを決めるのは技術の有無ではない。スポーツを楽しむファンがどのような試合を見たいか、ということだ。どこまで正確さを優先し、どこから人間くささを求めるかということがスポーツとは何かということを決定する。人間と機械の関係がスポーツと言うフィールドの中で新しいステージに入ろうとしている。(記事:詠一郎・記事一覧を見る

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