収穫が間に合わない!ロボット活用で農業人口減少への対応目指す

2019年3月4日 17:12

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 ロボットとAIによる人間の労働力の代替が最も強く求められている分野の一つが農業だ。日本ばかりではなく全世界的に農業労働者は減少しており、若い世代は農業以外の産業に従事することを選択する傾向が強まっている。一方で世界的に食料需要は高まっており、より少ない労働力でより多くの作物を育て、収穫する方法が求められている。

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 この問題は、特に果物の収穫で顕著になる。米や麦のような穀物は実も硬く、傷つきにくい品種を栽培することで、コンバインなどの機械により収穫する技術が進んでいるが、水分が多くて柔かく、見た目も大切な商品価値となる果物は機械でのハンドリングが難しい。

 今回は農業大国アメリカの事例をもとに、農業の効率化におけるロボット導入の可能性や、人間の労働をロボットが置き換える問題について考察してみたい。

●農業就労人口の逼迫

 世界中で進む人口の高齢化により熟練労働者がリタイアしており、一方で企業が成長がするために必要な高度人材が不足し、若年齢の労働力不足と労働需要のミスマッチとが同時に発生している。この需給バランスを調整するために、各国は学校教育における就労に関連する技能を重視し、エンジニアや電気技師などの知識を身につけるコースを提供して若い世代の高度な実務能力獲得を推進している。

 この一方で高度な能力を必要としない労働力の確保は一層難しくなっている。農業はその顕著な例だ。現在アメリカでは、農作物の収穫にあたる労働者の確保が深刻な問題になっている。

 カリフォルニア農家の労働者向けキャリアをサポートするCalAgJobsによると、全米平均でも農作業労働力の需要は志望者数の2倍に上り、特にカリフォルニア州では4倍に達しているという。このため農業労働者のコストは急激に上昇し、人手不足は慢性化して作物が収穫期を迎えても刈り取る人がいないため、収穫できないケースが多発しているという。このままではアメリカ国内で農業を営むことは難しいと考えている農家も多く、事業全体をメキシコなどへ移す動きも強まっているという。

 このような状況を打開するために、労働者と農家の関係をビジネスとして構築し、収穫の利益を作業者に配分したり、雇用者の収入を安定させるため収穫期以外も含めて通年で雇用するなど、制度面の改良が進められているが、絶対的な労働力人口の不足はいかんともしがたい。

●農業のロボット化による人材難の解消

 こういった問題に対して、大手の農業企業では、人力による作業を機械が代替することの検討を始めており、すでにいくつかのメーカーが農作業用の自動化システムやロボットの導入を実地でテストしている。

 イチゴの収穫は機械化のハードルが最も高い作業の一つだ。イチゴの実は柔かくて傷つきやすい上、傷むのが早いことから崩れて見た目が悪くなったイチゴは商品価値が落ちる。

 今回、フロリダのイチゴ畑で、イチゴ収穫ロボットによる収穫のデモンストレーションが行われ、その収穫性能が実地でテストされた。ワシントン・ポストの報道によると、このテストはHarvest CROO Robotics社のロボット Harvが12列のイチゴの株を担当し、その隣の畑では人間の熟練作業者が同じ大きさの畑からイチゴを収穫、その差を競うというものだ。

 イチゴの実は葉の間に隠れているので、Harvと作業者はイチゴの実を探し出し、傷つけないように摘み、小さすぎるものや熟していないものを除いた上で収穫用のケースに入れていく。メーカーによればHarvは1台で人間の作業者30人分の仕事をこなし、イチゴ1株を8秒で処理する能力があるという。

 実験は大手の企業のほかに一般の農家も招いて公開で行われ、参加者の中にはアメリカ以外にもカナダやオーストラリアから来た農家もいた。ロボットの作業を眼にした農家たちは強く興味を持ったようで、特に一日中休まずに働けることやどんな天候でも働き続けられることに注目している。ロボットならば移民のためのビザ申請もいらない。

 ワシントン大学では地元の農家と共同でリンゴを摘み取るシステムを開発中だ。この機械はリンゴ畑の間を移動しながらカメラで周囲を撮影し、画像を分析して実がなっている場所を確認、ロボットアームが実をもいでコンベヤーに乗せるものだ。このシステムは現在30万ドル(約3,300万円)もするため、一般の農家で導入するには予算に合わないだろう。

●ロボットは人の労働を代替するか

 Harvの収穫能力は、なっていたイチゴの実のほぼ半分を見つけることができた。人間の作業者は実っているイチゴの80%を見つけて収穫する。ただ今年のイチゴはできが良く、例年よりも大粒の実をつけていたという。作業の終わったHarvのアームはイチゴの果汁で真っ赤になってしまった。残念ながら、Harvは摘んだイチゴの多くをつぶしてしまったようだ。

 実験に参加した農作業の作業者は、Harvのようなロボットによって自分たちの仕事がいつかなくなってしまうのではないかと懸念している。一方で果物を買う消費者がどんなイチゴを買いたいと思うかは、人間でなければわからない、という者もいる。

 イチゴ摘みは技術的に難しいチャレンジだが、摘むのが難しい作物はイチゴだけではない。モモやブドウはさらに難しいだろう。サツマイモやピーナツなど、地中に生える作物を収穫するロボットは今のところ存在しない。

 農業の機械化は差し迫った問題だが、これは技術だけの問題ではない。イチゴのケースを見ても農業は高度人材ではない人間による、高付加価値製品の生産作業でもある。この問題を解決できなければ果物の価格は高騰し、やがて一般の人がイチゴを口に入れることはできなくなるだろう。Harvの開発元によれば、来年にはHarvが人間と同じ作業をこなせるようになるという。(記事:詠一郎・記事一覧を見る

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