ゴーンがgone(去った) カリスマと言われた男の、想定外の退場! (2)

2018年11月22日 22:01

印刷

 日産の役員報酬は金銭で支給される定額の役員報酬と、株価連動型インセンティブ受領権の2通りに分かれている。報酬委員会のない日産では役員報酬の配分をどうするかはゴーン元会長の胸先三寸だった。ゴーン元会長は自身の金銭報酬は実額を記載させたが、株価連動型インセンティブ受領権の額を「ゼロ」と記載させて、自分の報酬額を少なく見せかけた。職員の中には記載が必要だと進言する職員もいたようだが、暴走を始めていたゴーン元会長と代表取締役のグレッグ・ケリー容疑者は記載を拒否していたという。

【前回は】ゴーンがgone(去った) カリスマと言われた男の、想定外の退場! (1)

 進言した職員も拒否されて諦めた訳ではないだろうが、組織人として次の一手を打つのは難しい。それでなくとも、耳に痛いことを言う職員は遠ざけてイエスマンで回りを固めたと言われるゴーン元会長に、もう一言重ねる勇気は求めることは酷かも知れない。つまり今回の逮捕を招いた原因は、諫言を聞こうとしなかったゴーン元会長自身の言動にあるということになる。

 暴走している実権者を止めることは至難だ。1982年に老舗百貨店三越の取締役会で起こった岡田社長解任劇を記憶している人も多いだろう。当時三越で専横の限りを尽くしていた岡田茂社長は、取締役会での緊急動議により社長を解任され、のちに特別背任罪として起訴された。社内で岡田天皇とまで呼称された人物に対する緊急動議は、あっけなく16対0で可決された。岡田社長を守ろうとする取締役はいなかった。岡田社長は「なぜだ!」とつぶやき続けたという。

 今回の事態をクーデターになぞらえる声がある。方法論からするとそういう面があることは否定できない。だが、権力を握る実権者を真っ当な議論で翻意させられないと判断した結果が、公的な裁きに委ねるということだ。三越方式をイメージして極秘の多数派工作をしても、僅かな情報の漏洩があれば、逆に自分たちが放逐されるという恐怖が拭えなければ、残された手立ては限られている。情報提供者が自らの刑事処分軽減を見返りとする司法取引制度の活用が、ゴーン元会長の暴走をストップさせる最後の手段だった。

 営利企業が社内の病患を除去するために司法取引に至れば、副作用は避けられない。情報提供者の処分は軽減されても、法人としての日産や当時の中枢幹部まで救われる保証はない。いずれ始まるゴーン元会長の反撃に対する備えには、内部の結束が何より必要だ。ルノーや三菱自動車とのアライアンスの行方にも険しい道のりが想定され、販売面の悪影響も避けられない。(記事:矢牧滋夫・記事一覧を見る

続きは: ゴーンがgone(去った) カリスマと言われた男の、想定外の退場! (3)

関連キーワード

関連記事