株式投資は博打などではない (2)

2018年11月14日 09:18

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  ヤオコーは埼玉県を中心に関東1都6県で150余の店舗を展開する、食品スーパー。1988年2月の現ジャスダック市場上場から2回目の決算期以降、前18年3月期まで29期の増収営業増益を続けている(今期も増収増益計画)。前期に至る過去5年間の平均営業増益率は12・1%。長きに亘るデフレ経済下での値引き競争激化や、コンビニの追い上げという環境での長期の連続増収増益は評価に値する。

【前回は】株式投資は博打などではない (1)

 ヤオコーの株を昨年4月の始値で買い、今年3月31日まで保有していた場合の投資元本は取得配当分を含め約35%増えている。同じ時期の日経平均株価の上昇率は約13%。そして16年3月期の初値(15年4月の始値4450円)で取得し時価(本稿作成時点、以下同じ)まで保有した場合はどうか。配当所得分を加えると初期の投下資金44万5000円は60万2000円余に約40%増えている。ちなみに同じ時期の日経平均株価は11%弱の上昇。商圏が限られた地域スーパーの投資パフォーマンスが、日本を代表する企業で構成される株価指数の上昇率を大きく上回っている。

 ただ、長期の連続増収増益企業という理由だけで株式投資の対象とするのは早計に過ぎる。多面的な調査・熟考を重ね「判断」を下すべきである。

 例えばスーパーに限らず小売業の好不調を示す指標に、「既存店売上高推移」がある。開設から1年以上過ぎた店舗の売上高を、前年同月と比べた動向である。上回っていれば「順調・良好」と判断される。ユニクロを有すファーストリテイリングのように著名かつ日経平均株価動向に影響力が強い企業になると、「ユニクロ○月の既存店売上高が、前年同期比○・○%ポイント上昇(低下)した」といったふうに新聞等でニュースとして取り扱われる。が、ヤオコーに関しては、その種の報道に接する機会は皆無に等しい。自ら調べてみる以外にない。

 ではヤオコーの17年10月から18年9月まで1年間の既存店売上高の推移は、どんな具合だったのか。毎月、前年同月を上回っている。この間の平均値は102・55%。スーパー全体:JSA(日本スーパーマーケット協会)の平均値は100・09%。

 また市場性の高い(相応の売買高を伴う)企業の多くには、証券会社などの担当アナリストによる株価格付けが行われている。株価目標が設定される。個人投資家が担当アナリストの目標株価をリサーチするのは実質上不可能。だが便利な情報源も存在する。

 東証マザーズ市場の企業にアイフィスジャパンがある。同社の主たる業務は保険業界などいわゆる機関投資家に対する投資情報の提供。そんな業態のアイフィスジャパンが内外の主要証券会社22社・主要アナリスト約600名の協力を得て、市場性の高い企業の目標株価について定期的に聞き取り調査をし平均値をネット上で公開している。通称「IFIS目標平均株価」。時価がその値を下回っていれば「買い余地あり」と判断することができる。ちなみに本稿作成時のヤオコーの時価は6000台円入口、対してIFIS目標平均株価は6708円。

 だが最も肝心なのは、「ヤオコーの長期に亘る堅調ぶりは、なにに起因するのか」という「礎」を知ることであろう。私は、現場(店舗)の士気を高める施策に求められると捉える。

 周知のとおり、スーパーの現場の主戦力はパート社員である。同社はパート社員のモチベーション向上策と積極的に取り組んでいる。具体策としては、昨年6月21日付けでも記したが次のような施策に収斂される。

(1) 賞与の支給:パート社員にも、正社員同様に年2回のボーナスが支払われている。そして支給される金額は、自らが容易に計算できる仕組みになっている。時給・勤務時間からはじき出せる透明な枠組みである。「いくらいくらのボーナスが11月末には入る」というのは、やる気を引き出す有効な策といえよう。また増収増益の年度末には、社員同様に手当てが支給される。金額は「冬季賞与相当額」とされる。
(2) 昇格:店舗の各持ち場の責任者(主任)にはパート社員が登用されている。レジ主任・商品棚巡回主任・品出し主任などは全員がパート社員。適当な競争意識を培養するのも、現場の士気向上を醸し出す方策といえよう。
(3) 組合員:パート社員にとって一番の“安心”とは安定した雇用が担保されることであろう。解雇に対する不安が一番の心配事だといえる。その意味でもヤオコーの施策は興味深い。パート社員でも希望すれば、組合員になることができるのである。

 2017年末でヤオコー労組の組合員数は1万3300名弱。上部団体であるUAゼンセンの中でも、図抜けた組合員数。昨年末でヤオコーグループの正社員数は約2900名であることを勘案すると、他社に類を見ない組合員数といえる。総組合員数のうち契約社員100名強・パート社員9800名強・ヘルパー社員が500名余。ちなみにヘルパー社員とは、「所定の月間労働時間がパート社員より少ない現場社員」を指している。

 UAゼンセンは、「御用組合の集まり」などと揶揄される。が、「私も組合に入っている」としたレジ主任は「安心感が違うと思います」とした。(記事:千葉明・記事一覧を見る

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