「食の王国・北海道」に不可欠な電力と鉄道に迫る危機 (前編)

2018年9月26日 21:42

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 北海道は多くの日本人にとって憧れの地域であるらしい。永住したいかとなると微妙だろうが、日常を忘れさせる雄大な自然と、そこから生み出される豊富で優良な農畜産物や漁獲物の人気は、他の都府県の追随を許さない。反面、北海道には洗練された加工技術は存在しない。関西地方における昆布製品の多様さと製品としてのレベルは、原産地の北海道に求めるべくもない。スケソウダラの卵が、福岡県で明太子という名産品に君臨していることを知った道産子は、どれほど驚いたことであろうか?

【後編は】「食の王国・北海道」に不可欠な電力と鉄道に迫る危機 (後編)

 北海道で生産される農畜産漁獲物はおびただしい量に上るが、150年前から徐々に移住してきた開拓者が開いた新しい地域であるため、人口は少なく密度も低い。加工業を育成するほどの人的な余裕はなく、産業として力を蓄えるほどの経済の奥行きもなかった。そんなことを考えなくても、素材としての商品には他の都府県産を圧倒する迫力があった。素材の魅力だけで勝負が出来たから、加工品に対する要求レベルが高まらなかったという見方もできよう。日本各地で開催される「北海道物産展」はどこでも大変な集客力を誇り、北海道の魅力を全国に伝えている。

 その北海道のエネルギーを支えているのが北海道電力、鉄道網を支えているのがJR北海道だが、北海道の産業と生活の基盤を支え、欠かせないインフラであるはずの両社の様子が最近おかしい。

 6日に北海道胆振地方を震源とした震度7の地震が“ブラックアウト”を引き起こし、北海道の全世帯に当たる295万戸で一斉に停電する事態が発生した。地震発生直後、震源地近隣で北海道電力最大の火力発電所だった苫東厚真発電所(厚真町)の1、2、4号機がすべて発電を停止した(3号機はトラブル多発による低稼働率により05年に廃止され、5号機の建設は凍結されているため、苫東厚真発電所の発電機は1、2、4号機が全てである)。

 北海道がブラックアウトに至った直接的な原因は、苫東厚真発電所に北海道の発電機能が一極集中していたことと結論付けられているが、もともと北海道の電力の約40%を供給していたのは、泊原子力発電所(泊村)だった。ところが、11年の東日本大震災により原子力発電所の運転に対する規制が強化され、原子力規制委員会の審査が長引いて12年以降は稼働していない。泊原子力発電所が稼働を停止しているため、火力発電所に頼らざるを得なくなり、燃料購入費が急増して14年3月期までの3期間連続の赤字となったことが、北海道電力の経営を一気に苦境に追い込んだ。11年3月期には20%を超えていた自己資本比率は急激に悪化し、14年3月期には7.6%まで低下した。

 このため、13年9月に電気料金を7.73%値上げしたのに続き、14年11月には再度15.33%の値上げに至った。こうして債務超過に陥るという最悪の事態は回避できたが、電気料金は全国最高水準となり大口の顧客が新電力へと流出するきっかけともなった。2017年度の北海道電力の年間電力販売量は、前年比7.5%減の248億キロワット。7年連続で減少しており、この間、約23%販売量が減った。全国10電力では、北陸電力、そして、四国電力にも抜かれ、辛うじて沖縄電力より上の9位に落ちている。

 19年3月期の初めには、年間電力販売量を対前年比6.5%の減少と見込んでいたが、ブラックアウトと復旧の長期化により、落ち込み幅が大きくなるのは避けられない。更に、電力の供給不安があるため「節電」を勧めている。ただでさえ減少している売上を、さらに引き下げる“努力”まで必要になっている。おまけに、急遽現役に復帰した老朽発電所は、燃料に高価な国産の石炭や発電効率の悪い重油と軽油を使用するため、苫東厚真火力発電所の2~3倍の発電コストが嵩む。運転コストの増加と売り上げの低下に復旧費用が加算されれば、19年3月期を待たずに再度の経営危機に陥る可能性すら懸念される。(記事:矢牧滋夫・記事一覧を見る

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